企業のニーズは学生の想像以上に多様になってきています。例えば生物学系の専攻であれば、多数の実験で仮説・検証を繰り返します。一見関係のないように見えますが、細かくPDCA(計画、実行、評価、改善)を積み重ねていくことができる人材というのは、例えばフィンテックなど新領域に取り組む金融機関でニーズが高まっていたりします。
産業界のニーズ、社会のニーズを把握して、広い視野で自らのキャリアを見通すことが不可欠です。それは、自己分析のように、自分の内側へと解を探す「内へのアプローチ」ではなくて、自身のこれまでの経験や学びと社会的ニーズとの接点を探る「外へのアプローチ」なのです。
専門以外にも視野を広げて
そして大切なのは、内定後、社会に出てからいかに働いていくかなのです。大学や大学院で専門分野を深めてきても、自らをその専門性の檻(おり)に閉じ込めてはいけません。変化の激しい時代に必要とされる最先端のテクノロジーを自ら習得していく。大学卒業後も、自ら継続的に学び続ける必要があります。
加茂社長も「これから求められるのはT型人材」と言います。T型人材とは、特定の分野を深く究めつつ、それ以外の多様なジャンルについても幅広い知見を持った人材のことです。「もともと米国の大学の研究室は相互交流が盛んで、午後のティータイムに異なる分野の研究者が集まって自由に意見交換する習慣があります。最近はAIも他の分野との掛け算になってきている。今後日本も研究分野の境界がなくなっていくと思います」。研究分野に進むとしても、視野を広げる必要が出てきているということです。
変化に対応しながら、変幻自在にキャリアを形成していくことは、理系学生にも、文系学生にも、人生100年時代を生き抜いていく働き方の作法です。
最後に加茂さんから理系学生へのアドバイスをもらいました。
「みなさんのこれからのキャリアの可能性を過小評価しないでください。学生時代にできるだけ、企業のプチ体験を積み、働くリアルを学んでください。自ら積極的に社会人の先輩の話をきく機会を増やしていく。研究室での専門的な学びと社会に出てどう働いていくのか、この両方をそれぞれ大切にしてください」
一人でも多くの理系学生が、それぞれの可能性を最大限に発揮できるキャリアトランジッション(=移行)を経験していくことは、この国のイノベーションにも良き影響を与えていくことになるはずです。
1976年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程を経て、メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員をつとめる。2008年に帰国し、法政大学キャリアデザイン学部教授。大学と企業をつなぐ連携プロジェクトを数多く手がける。企業の取締役、社外顧問を14社歴任。著書に『プロティアン―70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術』(日経BP社)など。