今年から新人の教育担当となったS木は悩んでいた。新人2名のうち、女性のK田は素直で覚えもよく、事務処理も丁寧で正確だ。一方で、男性のM原は、元気はいいのだが、細かいことが苦手なのか、数字の打ち間違い、チェックミスなどが目立ち、なかなか仕事を任せられない。もっと困るのは、注意をしても何かと言い訳してくることだった。

「M原君、この数字間違っていたから、入力をし直しておいてくれる?」とS木が指摘して修正を命じても、

「これってわざわざ入力する仕組みがどうかと思うんっすよね。これからの時代、作業レベルの業務はAIに取って代わられますからね」と、話をすり替えて、決して謝らない。

「いや、今の段階でまだうちの事務所にそういった仕組みはないから、とりあえず入力し直して」

とS木が再度依頼してようやく、不服そうな顔ながらも黙って作業をし始めた。

M原がそんな調子なので、S木はどう教育していくかについて悩み、所長のY川に相談したが、「まぁ、まだ若いからね。そのうち変わってくるでしょ」とあまり取り合わない。責任感が強いS木は、どうしたものかと頭を抱えていた。

薄っぺらい知識を得意げに客先に披露

そんなある日、6カ月の事務所内での研修を終えた新人2人は、S木の担当先の企業に同行することになった。

「今日はお客様との打ち合わせの様子を見ていて。事務所に帰った後で、何か質問があったら受けるから」

と、S木は事前に新人2人に言っておいたのだが、いざ、打ち合わせが始まると、M原がお客様に突然自分の意見を話し出した。

業績が当初の計画より上がっていないとS木に相談したお客様に対し、「ちょっといいですか」とM原が会話に割って入ってきた。

「数字に対して、絶対にコミットするという強い気持ちが一番大事だと思うんです。さまざまな施策を検討しているようですが、一度、ゼロベースで考えてみませんか?」

突然の発言にS木も客も驚いた。S木が、「今日はとりあえず、お客様の状況を把握して、改善提案は後日の打ち合わせで検討するから」とやんわりと諫めても、「経営にはスピードが大事ですよね」と、取り合わず、薄い知識を一生懸命アピールしだした。客の不快な表情にS木は冷や汗をかきながら、「また次回、改善策についてお話ししましょう」と強引に打ち合わせを終了させた。

「M原さん、どういうつもりですか? 今日の打合せはとりあえず、見ていてくださいって言いましたよね?」

打ち合わせから戻る途中、S木は怒りを爆発させた。M原は反省するどころか、「お客様に有益な情報を与えるのは、プロとして当然だと思います」などと反論してきた。

「M原さんはまだ入職して数カ月で、知識もスキルも半人前です。プロ意識を持つことは素晴らしいけれど、自身の立場や能力を超えた言動は認められません!」

M原はS木の注意を聞きながらも、心の中は不満でいっぱいだった。その日の帰りにも、K田をカフェに誘い、S木への不満をぶちまけた。さすがに、K田もこの日のM原の言動には呆れていたので、M原に反論した。

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与えられた仕事を放棄し、勝手に顧客の数字分析