「都立大山高校では『哲学対話』という授業が行われているそうですが、これも言語化や絵を描くのと根底に流れているものは同じだと思います。哲学対話では、意見を絶対に否定しないというルールの下で、テーマを何か決めて、みんなで話し合います。すると、たとえば死というテーマで考えたのをきっかけに、それまでSNS(交流サイト)に『死ね』と書いていたような生徒が『死とは何か』『人は死ぬときに何を感じるのか』といった問いを発するようになり、以前のような書き込みをやめるようになるそうです。つまり、『死ぬ』という言葉の意味を自分なりに分解、咀嚼(そしゃく)、吸収することで、精神面の変化が起こり、感情の発露の方法が変わるということなのかもしれません」(小林氏)

減点より加点、薩摩藩の人事評価

困難に挑む力を磨くには、個人の努力が必要なのはもちろんだが、組織や社会がそれをどう評価するかも大きな要素になる。先人もそれを理解し、組織の仕組みにも取り入れていたと、小林氏は指摘する。

薩摩藩が明治維新の頃に採用していたとされる人事評価がそのひとつだ。薩摩藩の評価の基準は1番目が、新たなことに挑戦して成功した人だという。2番目が、新しいことに挑戦して失敗した人。3番目は、自分では挑戦しなかったが、挑戦した人を手助けした人。4番目は何もしなかった人。最も評価が低い5番目が、何もせずに批判している人だったという。

小林氏は「残念ながら今の日本企業や学校では、4番目と5番目が評価されることも多いのではないでしょうか。そういう人の割合も多いように思います。減点主義のせいです。難しいことに挑んで失点するより、何もせずに『あんなリスクはとらない方がいい』と賢そうに批判する。誰かが失敗したら『ほら俺が言ったとおりだ』と言う。その方が安全ですし、評価も下がりません」とみる。

しかし、イノベーション(技術革新)や変革が求められる時代には、これは問題だ。

小林氏は「2番目が評価されない限り、1番目も3番目も出てきません。幕末の先人はそれを理解し、失敗を積極的に評価していたのに、それがいつの間にか忘れられてしまった」とみる。

「失敗を通じて人を成長させるには、2つの条件が必要です。1つは、本人に失敗しても挑戦し続ける意志があること。2つ目は、挑戦を応援しようという社会風土があることです。個人の力を磨くとともに、それを支える周囲の環境を整備することが、学校、企業、さらには社会に求められているのではないでしょうか」(小林氏)

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小林りん
学校法人ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン代表理事。都内の高校からカナダのUWCに編入。1998年に東京大学経済学部を卒業した後、国際協力銀行などを経て2005年にスタンフォード大学大学院で国際教育政策学の修士課程を修了した。国連児童基金(ユニセフ)のプログラムオフィサーとしてフィリピンでストリートチルドレンの教育問題にかかわり、14年に現在の学校の前身であるインターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)を設立。UWCの加盟承認を受け、17年8月に現在の校名になった。

(ライター 渡部典子)

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