自分をテストマーケティング キャリアの迷路どう脱出
仕事と遊びの境界線をなくす「公私混同力」のススメ(2)
会社に不満があったり、自分に合わない仕事を無理にこなしたりしている人は意外に多いと思います。それでもいきなり転職活動を始めたり、異動希望を出したりするのが得策とは限りません。「キャリア迷路」から抜け出すためのコミュニティーを主宰する池田千恵氏は、今の環境のまま小さくやりたいことを試す「自分テストマーケティング」で会社の不満を解消したり、キャリアの展望が開けてきたりする可能性が出てくると指摘します。今回はどうやって自分テストマーケティングをしていくかについて解説します。
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つまらない仕事から楽しみを見いだすためには?
前回は、「今の職場では力を発揮できない」「この仕事は本当にやりたいことではない」といった悩みは、転職や異動で必ずしも解決できるわけではないと述べました。明確にやりたいことがあるわけではないけれど「つぶしがきかない」「将来が不安だ」という時に試してほしいのが、この連載で提唱する「公私混同力」を磨くことです。「公私混同力」とは、今ある環境を最大限に活用しつつ、自分のやりたいことを実現する力のことです。仕事を遊びのように楽しむこと、つまり「公私混同」でわくわくするようなことを、今この環境から探してみるところから始めましょう。
とはいえ、今の仕事に意義を感じず、つまらない、やりがいがないと思っているところから、どうしたら楽しみを見つけるのか? と思うと戸惑ってしまうかもしれません。そこで今回は、自分の「好き」を見つけ、「好き」と今の仕事をつなげて意義を見いだすための具体的なステップをお知らせします。
まずは自分にとっての「自由」を定義しよう
今の職場は嫌だ、自分らしくない気がする、もっと自由に働きたい……。こう思ってしまうとき考えてほしいのは、自分にとっての「自由」とは何か、「自分らしい」とは何かといったような、価値観をきちんと言語化できているか? ということです。なぜなら、「仕事が遊びで、遊びが仕事」の状態にするためには、自分が本当は何を必要としているかをしっかり把握し、優先順位をつけて取捨選択することが必要だからです。
例えばメディアによく登場する起業家を自由で羨ましいと思う人は多いですが、ここで言う「自由」とは一体何を指しているかを考えてみましょう。あなた自身が「お金の自由」が欲しいのか、「時間の自由」が欲しいのか、「誰にも干渉されない自由」が欲しいのか、どれを第一優先にしたいのかをはっきりさせないまま「自由」を求めるとキャリア迷路にはまる可能性が高まるからです。
あなたが本当は「誰にも干渉されない自由」「時間の自由」を第一優先に考えているのに「お金の自由」を求めて起業したとしましょう。成功すれば事業拡大することでお金の自由は得られるかもしれません。しかし一方で従業員のマネジメントの手間が増え、スケジュールが分刻みに決められ、株主に経営を干渉され……といったように、本来の自分が求めている「誰にも干渉されない自由」「時間の自由」からはどんどんかけ離れていく可能性もあります。
今の会社には「自由」がない、そう思ってしまうと思考停止になりますが、一人ではとうてい成し遂げられない成果でも、会社という組織なら大きな権限と予算を与えられることで実現できる。そう考えると、実は会社にも「自由」が眠っていることが分かるでしょう。
これは、起業家と会社員のどちらが良い悪いという話でありません。自分にとっての「自由」は自分で定義するしかないし、人にとやかくいわれて変えるようなものではないという話です。
では、自分にとっての「自由」を見つけるにはどうしたらよいのでしょうか。筆者は図のような5つのステップがあると思っています。
順番に解説します。
価値観を仮定めして自分をテストマーケティングしよう
最初に必要なのは、自分は何が好きで、何が嫌いかという価値観を過去の行動から探ることです。多くの人は、自己分析を就職活動や転職の時に面接官にアピールする材料として表面的に終わらせてしまっていますが、本来は面接官のためではなく、自分のためにも定期的に、徹底的に行う必要があるのです。自己分析をしっかり終わらせずに人生をやり過ごすと、毎回同じピンチに直面したり、本当に必要な学びを無視して別な勉強に時間を費やしたりして学びを成果につなげるのが難しくなるからです。
ではどうすれば良いか。外に目を向けて比べて焦るのをいったんやめ、自分の中にある資産を見つめていくことを提案します。具体的には保育園・幼稚園・小学校・中学校・高校……と、区切りごとに「3大うれしかったこと」「3大悲しかったこと」を書き出し、どうしてうれしかったのか? どうして悲しかったのか? を書き出すと効果的です。過去を振り返り、寝食を忘れて没頭して遊んだ原体験や、昔からどんなことに憤りを感じていたかを思い出してみましょう。
まずは徹底的に自分の棚卸しをする
徹底的に自分の棚卸しをすすめると、「私は人や物や事をつなげるのが好きなんだな」「ナンバーワンになるというより、ナンバーワンの人を陰で支える参謀役だと能力を発揮しやすいな」「商人というより職人気質だな」「チームプレーよりも一人で黙々と目標達成するのが好きなんだな」といったように、自分のキャリアや好きの方向性が見えてきます。ここまでは自分の「キャリアの方向性」の仮説です。まだ仮説段階なので、いきなりそのキャリアや好きの方向性に転職や異動をしようと動くのはおすすめしません。まずはキャリアの方向性を今の環境を使って小さく試していきましょう。
上記の例でいうと、今の会社の中で「参謀気質」「何かをつなげる」「職人が生きる」「一人で黙々」というキーワードを生かした仕事の仕方ができないかを、今の環境のまま試してみましょう。会社で見つからない場合は所属する会社以外のコミュニティーや、仕事で培った知識を無償で提供する「プロボノ」活動などで、自分の「新キャラ」として試してみるのもおすすめです。会社・会社以外で見つからない場合はブログやSNSで発信していくことも良いでしょう。
これが「自分をテストマーケティング」するということです。自分の軸の方向性を仮定めして、小さく試して、調整するというやり方で、自分の「好き」や自分が大切にしている価値観が世の中に通用するのか、やっていて楽しいかを実験していきます。
もはや10年後に今勤めている会社が「何屋」をしているか分からない今の時代、「完璧な準備ができてから」と一生懸命スキルアップして、準備万全で行動を起こすのはナンセンスです。不安でも、未熟でも、未完成でも、まずは仮決めしてチャレンジしていくやり方を、会社という環境にいるうちに試してみましょう。
自分自身の価値という「値付け」は、原価がもともと分かる商品の値付けとは違うため難しいということは前回も述べましたが、今回紹介した5つのステップを踏み小さなチャレンジを繰り返すことにより、ホワイトカラーの仕事に従事しているとなかなか気付かない「労働の対価がいくらか、会社にどのくらいの価値を提供できているか」というコスト感覚や、「世の中に求められているのは自分のどの能力か」というマーケティング感覚が磨かれます。
誰しも、自分の好きなこと、得意なことで感謝されるのはうれしいものです。小さく試すことで小さな成功体験を積み上げることができれば、仕事に対するやりがいも見つけやすくなりますし、創意工夫の余地も生まれます。これを繰り返すことにより信頼が徐々に積み上がり、結果的に稼げるような自分になっていくことでしょう。
まずは5つのステップの全体像を理解し、第1ステップの「自分の強みや軸を棚卸しする」ところから始めてみましょう。あなたのチャレンジを応援しています。
朝6時 代表取締役。朝イチ業務改善コンサルタント。慶応義塾大学卒業。外食企業、外資系企業を経て現職。企業の朝イチ仕事改善、生産性向上の仕組みを構築しているほか、個人に向けては朝活でキャリア迷子から抜け出すためのコミュニティー「朝キャリ」(https://ikedachie.com/course/salon/)を主宰。10年連続プロデュースの「朝活手帳」など著書多数。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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