子どもの安全が脅かされる時は、見過ごさず声掛けを
特に、「もう(叱るのを)やめなさい」「周りに迷惑でしょう」「暑い日に子どもを連れ出しちゃだめよ」など、親をとがめるような言葉は禁物です。ただ、高祖さんは「声を掛けて断られても、『私が間違っていたのだろうか』と深刻に捉える必要はない」と強調します。

「例えば、駅の階段で母親がベビーカーを抱え、子どもがぐずって階段を上らない場面に遭遇し、『お手伝いしましょうか?』と声を掛けて断られたとします。親はその時、自分で対応できると思ったのかもしれないし、びっくりしてつい断ってしまったのかもしれない。この親子は今回は助けが不要だったのだなと割り切り、その後も困っていそうな親子には声を掛ければいいのです」
落合さんには、駅で子どもをひどく怒る親を見かけて「大丈夫ですか?」と尋ねたら、すっと離れて行かれた経験があるといいます。しかし落合さんは「親に暴言や暴力がある時は、その行為を止めるのを優先すべきだと思います。親への配慮も大事ですが、子どもの安心、安全が脅かされた時は、見過ごさないことが重要です」と話します。
「周囲にいる10人のうち9人は、心の底では親を助けてあげたいと思っていても、勇気や時間がなくて行動できないのでしょう。しかしその結果、親のほうは『子どもはわんわん泣いていて、私も困っている。周りにはこんなに多くの人がいるのに、誰も手を差し伸べてくれない。私は孤独だ』と考えてしまうこともあります」。高祖さんはこう指摘した上で、次のように話します。
「親の孤独感や孤立は、不安やいら立ちを増幅し、虐待へとエスカレートする可能性もあります。多くの人たちに声を掛けてもらったり、子どもをあやしてもらったりすることで、ホッとして心の余裕が生まれる。たとえその時は申し出を断っても、助けてくれる人は存在する、と思うだけで、孤独感は和らぐのではないでしょうか」


(取材・文 有馬知子)
[日経DUAL 2019年6月12日付の掲載記事を基に再構成]