「宝飾品の永続的な美を問う」カルティエ、時の結晶カルティエCEO シリル・ヴィニュロン氏に聞く

光学ガラス、その上に置かれたブローチ、掛け軸など、年代も異なる事物が呼応し合う空間(撮影:小野祐次 (c)N.M.R.L./ Hiroshi Sugimoto + Tomoyuki Sakakida)
光学ガラス、その上に置かれたブローチ、掛け軸など、年代も異なる事物が呼応し合う空間(撮影:小野祐次 (c)N.M.R.L./ Hiroshi Sugimoto + Tomoyuki Sakakida)

天空から降り注ぐ光の帯を模した布の柱。暗闇にいくつも浮かび上がる大谷石の小さな祠(ほこら)。古木で整えた床の間に掛かる祈りの軸物。そのすべてが、新旧の宝飾品の輝きと技巧を引き立たせる舞台装置だ。国立新美術館(東京・港)で開催されている「カルティエ、時の結晶」は光と闇、古と新、人工と自然が融合し、呼応し合う空間設計が来場者の目を奪う。その空間に身を置けば、時の流れを忘れてしまう。効率に追われ、使い捨ても意に介さない時代に対し、永続的な魅力を放つ宝飾品を介してカルティエは何を訴えかけようとしているのか。カルティエインターナショナル最高経営責任者(CEO)シリル・ヴィニュロン氏にその本意を聞いた。




■異なる時間軸からものを集めて一堂に見せる

――会場の構成は杉本博司氏と榊田倫之氏による建築設計事務所、新素材研究所が手掛けました。掛け軸や屋久杉で演出した空間に宝飾品を配置するという、独創的な演出です。

「天井が高くて暗い会場に展示物が浮遊しているように見えるでしょう。1860年代からのカルティエのコレクションと、この1~2年に販売したものも含めた70年代以降の現代のプライベートコレクションを混在させ、さらに骨董品や石などと合わせて配置しました。異素材を組み合わせた展示をじっと見ていると、宝飾品の奥深い世界に歩み入っていくような感覚を覚えるはずです」

「今回は展示物を飾る器物や設営などすべてをアートと考えて空間を設計しました。これまで私も多くの展覧会を経験してきましたが、今度は初めて見たものばかりで、多くの発見がありました」

「空間、素材、宝飾品すべてをアートととらえた会場です」と話すカルティエインターナショナルCEOのシリル・ヴィニュロン氏

――主題は「時間」ですね。

「日本は時間の観念が独特の国です。時の結晶、というタイトルから着目したのが石でした。石は数百万年という歳月の間に地球の中で圧縮されて作られます。その時間の流れから考えると、1920年も、1970年も、ほんの一瞬でしかない。人類が存在していない時代につくられたものと、現代に至る歴史を刻んだものが同じ空間に共存すれば、見ている人は時間の感覚を失うだろうと考えました」

――日本のアンティークも装飾に使われていますね。

「お寺で使われていた1000年も前の木材や掛け軸と宝飾品とが対話しあい、呼応しているのが分かります。異なる時間軸のものを一堂に集めると、純粋な美しさのみが際立ってくるのです。それを象徴するのがこちら(トップの写真)です。時の結晶を表す光学ガラスにジュエリーを飾り、お皿に載せています。この少し湾曲したお皿は室町時代に金を砂や石とより分けるために使われていたものです。掛け軸には榊(さかき)から垂れ下がる藤の花が描かれ、同様のモチーフのシダのブローチと対話をしています。隣には人の手になる鎌倉時代の厨子(ずし)の天井板を置きました。また、ていねいに手彫りされた木の台座の上に置かれたエメラルドや屋久島でしつらえた床の間もあります。どれも時を超えて美が調和していますよね」