出産した人の半数で下肢静脈瘤
では、静脈の病気から詳しく聞いていこう。
長崎さんは、強調する。「下肢静脈瘤は、実は非常に多くの人に起きています。古い調査ですが、30~49歳の55%、50~69歳で61%の人に静脈瘤があったという報告があります。また、出産経験のある女性の2人に1人、つまり約半数で起きているという調査結果もあります」
先ほども触れたように、静脈のポンプの役割を果たす脚の筋肉は伸縮することで、血液を心臓の方へと押し上げている。
「しかし、座りっぱなしや立ちっぱなしの仕事をしていたり、運動不足だったりすると、血液がなかなか押し上げられない。そのため、だんだん血管にたまってきて、静脈が腫れあがってしまいます。その結果、静脈弁が壊れてしまい、血液が逆流。さらに、静脈の壁が引き伸ばされて、見た目にも血管の拡張が目立つようになります。これが『下肢静脈瘤』のできるプロセスです」(長崎さん)
下肢静脈瘤には、段階があり、くもの巣状のもやもやした血管が見えた状態が最も軽度だが、ひどくなっても、脚のだるさやむくみ、重だるさなので、気づきにくいという。
一方、「静脈が停滞したために、血栓ができ、詰まってしまう『深部静脈血栓症』は、長時間同じ姿勢でいたり、手術後など足の運動を行わない状態が続いたりすると起こります。そして歩き始めたとき、その血栓が血液の流れにのって肺動脈に運ばれ塞いでしまう『肺塞栓症(はいそくせんしょう)』という病気になることも。重症の場合は死に至ることもあります」と長崎さん。
静脈の場合、どちらも「同じ姿勢で脚を動かさない」ことが問題だ。だから、脚の静脈の病気を防ぐには、静脈の血液が心臓に向かってきちんと流れるよう、常に意識すること。ふくらはぎはなるべく意識して動かすことが一番だ。
「そのためには普段の歩き方にも気を配ることが大切です。ふくらはぎを十分動かすためには、後方荷重(こうほうかじゅう)で歩かない。肥満体形の方に多いのですが、どすんどすんという感じの後方荷重の歩き方は“ふくらはぎを全然使えていない歩き方”なのです。歩くときはちゃんとかかとを上げ、親指で地面を蹴りだすこと。また少し歩幅を大きく歩くことや、なるべく階段を使うようにすることも、ふくらはぎをよく動かすことにつながります」(長崎さん)
次回は、歩き方以外のセルフケア、脚の動脈硬化を防ぐ生活習慣、検査法を紹介する。

(ライター:赤根千鶴子、構成:日経ヘルス 白澤淳子)
[日経ヘルス2019年8月号の記事を再構成]