環境対策で期待集めるESG投資 日本に定着する条件『ビジネスパーソンのためのESGの教科書』著者に聞く

日本総合研究所 創発戦略センタースペシャリストの黒田一賢氏 
日本総合研究所 創発戦略センタースペシャリストの黒田一賢氏 

「私たちを失望させる選択をすれば、決して許さない」。ニューヨークで開かれた気候行動サミットで、温暖化対策の着実な実行を求めるスウェーデンの少女の演説が耳目を集めた。普通の人でも、仕事を通じて温暖化対策で貢献することはできる。アクションの一つとして注目されるのが「ESG」だ。その実態と有効性について『ビジネスパーソンのためのESGの教科書 英国の戦略に学べ』(日経BP)を書いた黒田一賢氏に聞いた。

環境・社会・企業統治を重視

黒田一賢氏の著書「ビジネスパーソンのためのESGの教科書」 

ESGとは環境(E)、社会(S)、企業統治(G)を重視して投資先を選ぶことを意味する。投資対象となるのは、製品やサービスを生み出し提供していく過程で収益向上と持続可能性の両方を目指す企業だ。こうした企業を資金面で応援するのがESG投資である。

温暖化対策はEの点検項目の1つ。世界の2000を超える機関投資家が投資対象銘柄を選ぶ際の基準に採用しており、年金など長期資金の運用の分野では今や主流の考え方だ。黒田氏は現在、シンクタンク大手の日本総合研究所でESG投資の調査に携わっている。ESG発祥の地の英国で環境政策や環境経済学を学んだ後、ロンドンのESG評価機関で実務経験を積み、現職に転じた。

日本ではESGを「輸入モノ」「外国から押しつけられた」と感じて快く思わない投資家や経営者もいる。だが、黒田氏はESGは近江商人の「三方よし(商売は売り手・買い手だけでなく社会を利するものでなければならない)」と共通点があると指摘。「日本にも昔から似たような考え方があったのだから、日本に合ったやり方でESGを実践していけばいいのではないか」と提案する。

環境投資は年金加入者の利益になるか

著者は「ESGは英国が戦略的に発明した金融商品」だと指摘する。英国は世界初の株式会社「東インド会社」を設立して大航海時代から資本主義の発達をリードし、「世界の銀行」「世界の工場」と呼ばれた時期もあった。だが繁栄の裏側では公害など様々な環境・社会問題が発生した。ロンドンの金融街の人々はこれらの課題に対応する目的で国債や保険、投資信託などを発明した。ESGも同様に「資本主義が抱える問題に向き合うなかで改良を重ねながら出来上がった新しい金融商品」だ。「ESGの本質を理解するには歴史を知る必要がある」と考える黒田氏は、東インド会社設立(1600年)から最近までの金融史を検証しESGが現在の形に落ち着くまでの経緯を解説した。

その英国でESG投資が拡大したのは、2000年の年金法改正がきっかけだ。日本もそうだが、先進国では当時、ESG的な考え方に懐疑的な経営者や金融関係者は多かった。特に上場企業は「収益を拡大して株価上昇や配当の上積みを優先すべきだ。環境対策などにコストをかけすぎれば採算がとれない」との見方があった。年金資金を預かる運用会社は収益向上を最優先する企業の株式に投資した方が、環境保護に熱心な企業に投資するより年金加入者の利益にかなうという説だ。

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