フランスワインの味が変わる? 収穫記録に映る温暖化

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/10/19
欧州でワインを作る人々は、何世紀にもわたってブドウの収穫日の記録をつけてきた。現在、ワイン用のブドウは、以前よりも数週間早く収穫の時期を迎える(ILLUSTRATION BY J WILLIAMSON/ LEBRECHT MUSIC & ARTS/ALAMY)
ナショナルジオグラフィック日本版

1540年の夏、フランス、ブルゴーニュ地方のブドウ畑は、焼けるような暑さに見舞われた。その熱は「我慢の限度を超えて」いたと、当時の記録にはある。

この年はブルゴーニュに限らず、欧州全土が熱暑に覆われていた。アルプスの氷河が解けて後退し、大規模な自然火災がフランスからポーランドまで広がった。そしてフランス中部のワイン生産地では、ブドウがつるについたまま干しブドウと化し、そのブドウから作った糖度の高いワインはまるでシロップのようで、アルコール度数も非常に高かった。

通常、ワイン生産者がブドウを収穫するのは9月末か10月の初めだ。しかしその年は、例年よりも何週間も前に、熟しすぎたブドウを大急ぎでもぎ取らなくてはならなかった。

1540年と同じような早い時期の収穫が、今ではごく当たり前になったようだ。

このほど、科学者や歴史家がブルゴーニュ地方の街ボーヌにおける、1354年から現代までのブドウの収穫日の記録をまとめ、科学誌「Climate of the Past」に論文を発表した。およそ700年にわたるその記録から見えてきたのは、気温が大きく上昇したせいで、特に最近の30年間では、ブドウはかつての基準と比べると2週間ほど早く収穫されているということだ。

「ブドウが気温上昇に反応していることは明らかです」と、論文の著者でドイツ、ライプツィヒ大学の歴史学者トーマス・ラベ氏は言う。

そしてその反応が、ワイン自体にも変化をもたらしている。

ワインの味と収穫タイミング

ワインは、ブルゴーニュの文化に深く織り込まれている。ブルゴーニュの名産であるピノ・ノワール種やシャルドネ種といったブドウは、何世紀にもわたってここで育てられ、その気候条件に適応してきた。

ワインづくりにおいて、収穫のタイミングは非常に重要だ。樹にぶらさげたままにしておく時間が長すぎれば、ブドウは糖度が高くなりすぎ、ワインのアルコール度も高くなる。そうなれば、ブルゴーニュのワイン農家の多くが好む、繊細な味からは遠ざかる。ワインらしい味わいを生み出す酸が壊れてしまう可能性もある。

一方、樹に付けておく時間が短すぎれば、ワインに独特のフレーバーを与えてくれる、良い香りを出す化学物質のバランスが崩れるかもしれない。

ワイン農家は、ブドウの収穫日を几帳面に記録に残しており、古いものでは中世にまで遡る。ブドウの収穫日がいつになるかは、春から収穫までの間に、そのブドウがさらされていた気温に左右される。もし春と夏が暑ければブドウは早く成熟するため、早い時期に収穫する必要がある。涼しい場合には、その逆になる。

気候歴史学者らはまた、ブドウの収穫日のデータと、木の年輪や氷河の記録を照らし合わせることで、気候の変動を読み解いている。10世紀から14世紀頃にかけては中央ヨーロッパの大部分で気温が上昇しており、15世紀頃から19世紀にかけて気温は低下していたことがわかった。

過去数百年の間に気温は不規則に上下し、しばらく高くなるときもあれば、冷え込むこともあった。しかし全体としては、気候はある程度決まった範囲にとどまっていた。ただしそれは、しばらく前までの話だ。

教会に残された1300年代の記録

研究者らが見つけた記録の中でも特に長く、欠損が少なかったのは、ブルゴーニュの名高いワイン生産地の中心からほど近い街ディジョンのものだった。しかし、ディジョンのブドウ畑は1800年代、街が外に向けて拡大する中で、そのほぼすべてが姿を消してしまった。つまり、ディジョンの記録は現代まで続いてはいなかったのだ。

一方、ディジョンからおよそ43キロ南に位置するボーヌでは、何百年も前から一帯の丘を覆っているブドウ畑の多くで、今もワイン生産が盛んに行われている。またこの街に保管されている公文書は、ディジョンのそれと同じくらい充実していた。

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