保育園は母親を幸せにする 子どもの発達にもプラス東京大学大学院 山口慎太郎准教授(下)

東京大学大学院経済研究科准教授。1999年慶応義塾大学商学部卒業。カナダ・マクマスター大学助教授、准教授を経て、17年より現職。専門は、結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」と、労働市場を分析する「労働経済学」

出産や育児を理由に辞めないほうがいい

白河 その流れがあって、欧州は「パパクオータ制(育休の一定期間を父親に割り当てる)」へと政策転換したのですね。もしも「3年抱っこし放題」の政策が本当に実施されていたとしたら、日本はどうなっていたと思いますか。

山口 フランスと同じように、男女の役割固定化が進んだでしょうし、「家庭で子育てするから、保育園はたくさん要らないよね」という考えが広がって、さらに環境整備が遅れたのでは。

白河 となると、いざ「人材不足なので女性も働いてください」となったときの受け皿がもっと足りなくなっていたということ。その時では手遅れになりますね。

山口 加えて考えられるのは、女性の育休期間が延びるということは、それだけ企業側がバックアップ体制のために負担するコストがかかってしまうということ。すると「女性を雇うのは控えよう」という行動を引き起こしかねません。育休期間を延ばすことで働きやすさが大幅に改善するのなら試す価値がありますが、そうでなければ、むしろ労働需要に悪影響を及ぼす逆効果のほうが懸念されます。

白河 日本の場合も企業単位で見れば、独自に育休期間を延ばす制度を整えているところもありますが、実際には1年ぐらいで復帰して、時短で働き方を調整している方が多いですね。あとは、雇用保障が大事。

山口 特に日本は、「解雇はされにくいが、正社員を一度辞めるとなかなか再就職できない」という労働市場の特徴があるので、とにかく「出産や育児を理由に、辞めないほうがいいですよ」と女性たちには強調したいですね。

白河 休んでいる間の収入保障もできるだけ充実させていったほうがいいということでしょうか。

山口 現行制度では所得額に応じて給付金が決まる仕組みになっているので、たくさん稼いでいる人がより多くもらえるんです。給付金の充実よりも、保育所の増設や質を高める施策を重視したほうがいいのではと私は思います。

白河 保育士さんが自分の子どもを預ける保育園が足りなくて、なかなか職場復帰できないなんて、本末転倒です。やっぱり安心して女性が仕事を継続できる環境整備が最優先事項だということが分かりました。キャリアが一度途切れると、なかなか復帰できないというのも厳しい現実としてよく見聞きします。私が教えている女子大生に聞くと、「お母さんはもともと野村証券でOLをやっていたけれど、辞めて今はパート。医療事務とかいろいろ資格も取っているけれど、正社員には戻れなくて苦労している」という話がボロボロ出てきて。

山口 もったいないですね。日本全体で、ものすごい規模の人的資源が無駄になっていると思います。その背景としては、これまで日本の企業社会が求める働き方は長時間労働が基本となっていて融通が利きづらかったという理由がある。私が暮らしていたカナダでは、「子どもの事情で、きょうは出社しません」は無敵の理由として周囲に受け入れられていました。フルタイムの充実した仕事を、子育てと両立できる柔軟なワークスタイルの整備は急ぐべきだと思います。

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女性はキャリアを継続することが重要