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保育園は母親を幸せにする 子どもの発達にもプラス

東京大学大学院 山口慎太郎准教授(下)

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NIKKEI STYLE

結婚・出産・子育てというライフイベントを経済学の観点から分析している、東京大学大学院の山口慎太郎准教授は著書『「家族の幸せ」の経済学』(光文社新書)で保育園は母親と子どもの双方にプラスの面が大きいとしている。前回の「『父親が育休取ると子の偏差値があがる』って本当?」に続いて、詳しく伺った。

母親は経済面と心理面のストレスが減る

白河桃子さん(以下敬称略) 先生は著書の中で、子育てとキャリアの関係について、女性がモヤモヤしがちな思い込みを、エビデンスに基づいていくつも否定してくださっています。せっかくですので、いくつか聞かせてください。例えば、保育園と子どもの発達の影響。「保育園に預けてまで働くのはかわいそう」と、退職に踏み切る女性も多いのですが、実は保育園は子どもの発達にむしろプラスなのだと書かれていますね。

山口慎太郎准教授(以下敬称略) 保育園や幼稚園で行われる集団の幼児教育は、子どもの発達にとてもよい効果があることは、発達分野の研究でもかなりの報告がありますね。ただし、早期に文字や計算を習得させるような英才教育については、「短期的な効果はあるが、人生に影響を与えるほどの知能レベルの差は生まない」といわれています。

一方で、より重視されているのは、行動面への影響です。子どもがストレスを抱えたときに他者や物を傷つけてしまう攻撃的な行動をとってしまうことがあるのですが、「経済的に恵まれていない家庭の子どもが保育園に通うことで、子どもの攻撃性が有意に減少した」ということを私たちの研究グループが発見しました。厚生労働省が8万人を対象に追跡した「21世紀出生児縦断調査」から得られたデータを分析した結果です。

白河 親にとってはありがたいことですよね。さらに、子どもを保育園に通わせることで、「母親の幸福度も高める」のだとか。

山口 これは推測半分ですが、保育園に通うと母親が継続的に働けるので家計所得が上がり、経済的な心配が減るということが大きいと思います。さらに、「毎日24時間、自分が子どもを見守らないといけない」というプレッシャーからも解放される。経済面と心理面の二つのストレスが減ることで、母親の幸福は上がるのではないかと見ています。

白河 保育園に預け始める期間については、かつて家庭保育を重視する政府が「3年抱っこし放題」と発信して論議を呼んだことがありましたね。でもあまりにも不評でしたし、その話は有識者会議にも議題とならなかったので、立ち消えになったのだと思います。現状の「最長2年」という育休期間は、保育園に入るための延長措置という意味合いが強いですし、3年取得が認められているフランスでも実際に3年休む人は少ないと聞きます。「育休3年の効果」については海外でどう検証されていますか。

山口 3年以上育休が取れる国の代表例としては、フランスやドイツがありますね。この育休期間が女性の就労にどう影響したかという調査を見てみると、育休取得3年後に女性の就労は減ったことが分かっています。

フランスでは90年代まで第3子以降に限定していた育休3年の条件を撤廃した結果、3年取得する女性が増えたのですが、その結果、何が起きたかというと、家庭内の性別役割分担が固定化してしまった。「女性は家で子育てをして、男性は外で仕事をする」という構造がより進み、女性の就業が停滞してしまった。

ここまでは予測されたことだったのですが、さらには、子どもの言語発達にあまり良くないという指摘がされるようになりました。1歳を過ぎると、親以外の大人や子どもたちと関わることで言語能力や知能が発達することが分かっているのですが、家庭内に閉じた子育て期間が増えることで、その機会が失われてしまった可能性があるのです。

女性の長過ぎる育休取得は、男女平等、女性の労働市場への進出、子どもの発達という3つの観点から、あまり望ましくない結果が出たという評価があります。

出産や育児を理由に辞めないほうがいい

白河 その流れがあって、欧州は「パパクオータ制(育休の一定期間を父親に割り当てる)」へと政策転換したのですね。もしも「3年抱っこし放題」の政策が本当に実施されていたとしたら、日本はどうなっていたと思いますか。

山口 フランスと同じように、男女の役割固定化が進んだでしょうし、「家庭で子育てするから、保育園はたくさん要らないよね」という考えが広がって、さらに環境整備が遅れたのでは。

白河 となると、いざ「人材不足なので女性も働いてください」となったときの受け皿がもっと足りなくなっていたということ。その時では手遅れになりますね。

山口 加えて考えられるのは、女性の育休期間が延びるということは、それだけ企業側がバックアップ体制のために負担するコストがかかってしまうということ。すると「女性を雇うのは控えよう」という行動を引き起こしかねません。育休期間を延ばすことで働きやすさが大幅に改善するのなら試す価値がありますが、そうでなければ、むしろ労働需要に悪影響を及ぼす逆効果のほうが懸念されます。

白河 日本の場合も企業単位で見れば、独自に育休期間を延ばす制度を整えているところもありますが、実際には1年ぐらいで復帰して、時短で働き方を調整している方が多いですね。あとは、雇用保障が大事。

山口 特に日本は、「解雇はされにくいが、正社員を一度辞めるとなかなか再就職できない」という労働市場の特徴があるので、とにかく「出産や育児を理由に、辞めないほうがいいですよ」と女性たちには強調したいですね。

白河 休んでいる間の収入保障もできるだけ充実させていったほうがいいということでしょうか。

山口 現行制度では所得額に応じて給付金が決まる仕組みになっているので、たくさん稼いでいる人がより多くもらえるんです。給付金の充実よりも、保育所の増設や質を高める施策を重視したほうがいいのではと私は思います。

白河 保育士さんが自分の子どもを預ける保育園が足りなくて、なかなか職場復帰できないなんて、本末転倒です。やっぱり安心して女性が仕事を継続できる環境整備が最優先事項だということが分かりました。キャリアが一度途切れると、なかなか復帰できないというのも厳しい現実としてよく見聞きします。私が教えている女子大生に聞くと、「お母さんはもともと野村証券でOLをやっていたけれど、辞めて今はパート。医療事務とかいろいろ資格も取っているけれど、正社員には戻れなくて苦労している」という話がボロボロ出てきて。

山口 もったいないですね。日本全体で、ものすごい規模の人的資源が無駄になっていると思います。その背景としては、これまで日本の企業社会が求める働き方は長時間労働が基本となっていて融通が利きづらかったという理由がある。私が暮らしていたカナダでは、「子どもの事情で、きょうは出社しません」は無敵の理由として周囲に受け入れられていました。フルタイムの充実した仕事を、子育てと両立できる柔軟なワークスタイルの整備は急ぐべきだと思います。

女性はキャリアを継続することが重要

白河 もう一つ、女性が子育てを機に仕事を辞めてしまったり、男性育休が進まなかったりする背景にあるのが、「母乳育児推奨」や愛着理論です。「子育ての主体は母親であるべきだ」という根拠についても、先生は「そうとは限らない」と指摘されていますね。

山口 はい。長い間、母乳育児は医学的な観点から非常によいものだといわれてきましたし、「母性の象徴」としてのイメージの定着もあって、日本でも推奨されてきましたが、各国の調査を調べていくうちに、ベラルーシで行われた実験プログラムが最も信頼性が高いと注目しました。96年からカナダの研究者の主導で、ベラルーシで無作為に抽出された病院で出産した1万人超の母子を対象に始まった追跡調査で、子どもの発育状態や健康状態を出生時から見ていて、最新の調査は16歳時点で実施されています。この調査によると、これまで母乳の効果としていわれてきたアレルギーや肥満防止、知能発達につながる影響は、ほとんどないことが分かったんです。

白河 母乳育児をしたくても母乳が出ない女性たちや、育児に奮闘する男性たちにとっても朗報ですね。ついに液体ミルクの販売が始まったことも、追い風になると思います。

山口 液体ミルクは買ってすぐに飲ませられるのでとても便利で、カナダでよく使っていました。災害時には命をつなぐ重要な役割を果たしてくれますし。

白河 「母親が子育てすべきだ」という愛着理論については、どんな検証がありますか。

山口 生後1年ほどの時期に養育者と親密な関係を築くことが重要ですが、その養育者は母親でなくてもいいといわれています。きちんと愛情を注ぐことさえできば、母親が24時間一緒にいる必要はないということですね。

白河 「生後1年」というのは、何か裏付けが?

山口 ドイツでは育休期間を1年超取れる改革をした前後で、子どもの発達の変化を調査したのですが、特に変化は生じなかったことが分かっています。つまり、育休期間が1年以内でも1年を超えても、子どもとの愛着形成に差は生まれなかったということです。

白河 育休期間を伸ばしたら愛着がより形成されるかと思ったら、あまり関係がなかった、と。母親以外の養育者、例えばパパや祖父母、ベビーシッターさんでも問題ないのですね。

山口 はい。「3歳児神話」どころか「1歳児神話」も否定できる結果だと思います(笑)。一方で、政策面で言うと、0歳児の保育にはかなりのコストがかかりますから、限られた国家予算の中で家族支援を継続していくには1歳になるまで家庭保育できる環境を整えたほうがいいという見方もあります。

白河 なるほど。では、育休を取ること自体が女性のキャリアはどう影響しているのでしょうか。

山口 私が日本のデータをもとに行ったシミュレーション分析になりますが、「女性が1年間の育休を取ることで、向こう15年間の所得が4割増える」という結果が出ています。つまり、育休を取ってキャリアを継続することが、生涯所得を増やす得策になる。また、専業主婦の再就職行動を観察してみると、前年に専業主婦だった人が今年、非正規の仕事に就く割合は10%、正社員になる割合はわずか1%しかないんです。いかに「仕事を手放すのが、リスクであるか」が分かりますよね。

白河 今は共働きといっても、ほとんどがパート主婦ですよね。女性もしっかりと生涯にわたって所得が維持できるようにして、ほかの先進国並みに男性との収入格差を縮めていかないと。それが結果的に少子化対策にもつながると思うのですが、日本の政策はなかなかジェンダー平等の方向に向かわないんですよね。山口先生が政府から「少子化対策に必要なことは?」と聞かれたら、なんと答えますか。

山口 やはり保育園の供給の充実でしょうか。今回の幼保無償化に関しても、子どもにお金を使う方向性が明確になったのは素晴らしい進歩だと思うのですが、供給が追いつかずに保育の質が落ちることが心配です。一番優先して考えるべきなのは、子どもへの影響です。保育の質を担保しながら、男性も女性も充実したキャリアを築ける社会を目指す。そんな道へと、これからの日本社会が進んでいくことを望みます。

あとがき:小泉進次郎議員の育休が話題になったころにインタビューしたため、男性育休についての話題から始めました。男性が子育ての初期に関わることは、その後の長い期間に影響することが分かりました。また男性が「人にどう思われるか」と育休取得をためらうことは世界共通でした。勇気ある世界中の「ファーストペンギン」のおかげで、それがだんだんに払拭されてきたのです。ぜひ小泉さんには政界におけるファーストペンギンとして「子育てと両立する姿」を見せてほしいですね。さまざまなデータをもとに「神話」や「呪い」を払拭していく山口先生との対話は目からうろこが落ちることがたくさんありました。子育てに関しては経験がある人が多いので、誰もが「自分の体験」から語りがち。しかし何ごとにもエビデンスを求めることは重要です。

白河桃子
 少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大客員教授。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員。東京生まれ、慶応義塾大学卒。著書に「妊活バイブル」(共著)、「『産む』と『働く』の教科書」(共著)、「御社の働き方改革、ここが間違ってます!残業削減で伸びるすごい会社」(PHP新書)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプラン講座」を大学等で行っている。最新刊は「ハラスメントの境界線」(中公新書ラクレ)。

(ライター 宮本恵理子)

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