コマツのダントツ経営に死角あり ハーバードの視点ハーバードビジネススクール教授 ウィリー・シー氏(下)

もちろん中国国内にも三一重工(SANY)、中聯重科(ズームライオン)など、競合メーカーはありました。これらの国営企業は、ジョイントベンチャーをつくることによって、他国の企業の技術を導入し、コピー品の製造を始めましたが、どのメーカーもコマツのような高品質製品はつくれませんでした。

コマツがつくる建設機械は、悪環境に強いことで有名です。硬い岩がたくさんある場所でも、すぐに土ぼこりがかぶってしまうような場所でも、稼働することができます。またコマツの製品には早くからコムトラックスも導入されていました。このような中国企業が追いつけない高い技術力やシステムで、優位性を保ってきたのです。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。日本ユニシス社外取締役。

佐藤 コマツは2000年初頭以降、ダントツ経営を推進し、「建設機械の製造と販売」にリソースを集中させています。リスクはどのようにコントロールされているのでしょうか。またリスクという観点から、コマツの製品ポートフォリオをどう評価していますか。

シー データ収集、遠隔操作、自動運転という3つの点で、コマツは他社よりも優位な地位にあります。製品の多角化は何のために行うのか。通常は、リスクを分散するためです。コマツの製品ラインを見てみれば、隣接する分野へ新製品を展開していっているのがわかりますし、企業の買収や提携も積極的に行い、採掘装置など新たな製品もポートフォリオに加わっています。早くから無人ダンプトラック市場にも参入し、リオティントなどと協力しながら、コマツの無人ダンプトラック運行システム(AHS)を搭載したトラックを稼働させています。

コマツが抱えているのは、どの建設機械メーカーにも共通する問題です。それは、景気、マクロ経済状況、政治状況に左右されやすいビジネスだということです。このリスクを分散させるには、事業を行う国・地域を分散させるしかありません。ある国ではそれまで好況だったのに、急に資金が滞り計画が頓挫する、ということはよくあることです。

佐藤 コマツのグローバル戦略をどのように評価していますか。

シー なぜ企業が国外市場に進出するのか。その主な目的はリスク分散と規模の経済の実現です。いまや、世界の建設機械のメジャープレーヤーにはなるには、まず中国市場を制さなくてはなりません。コマツは、早くから中国に進出していたため、それだけで優位な立場にあります。それに加え、北米、中南米、オセアニア、アフリカなど、世界中の市場で勝負してきました。コマツは海外市場から多くを学んできたと思います。

佐藤 コマツは「日本の強みを生かした日本国籍グローバル企業」をめざしています。コマツのダントツ経営は、新興国でも機能するでしょうか。

工員に見える品質と精度を追求する姿勢

シー 私はこの教材を書くために、コマツの大阪工場を見学させてもらいましたが、そこで働いていた社員の皆さんから「品質と精度を追求する姿勢」を強く感じました。この精神は、コマツに限らず日本企業に共通する強みであると思います。

実際、日本のメーカーは精密機械製品の分野で世界を主導する立場にあります。ファナックの産業用ロボットや、ニコンのフラットパネルディスプレー(FPD)露光装置などはその最たる例でしょう。日本企業は複雑で精密な製品を製造することがとても得意だと思います。

一方、日本企業の課題は、新しいアイデアよりもリスク管理を重視してしまうところだと思います。私は「ルネサスエレクトロニクスと車載用マイクロコントローラーのサプライチェーン」という教材を執筆するにあたって、日本の半導体業界の研究を行ったことがありますが、ルネサスエレクトロニクスの事例は日本企業の課題を象徴していると感じました。

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