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Bリーグ開幕でサプライズ 「アリーナ落語」大作戦

立川吉笑

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NIKKEI STYLE

こういう商売をしていると、時折思いがけない仕事のオファーをいただくことがある。落語界という特に狭い業界に軸足を置いて活動していると、どうしても小さくまとまってしまい、自分で制御できる範囲の仕事しかしなくなりがちだから、思いがけないオファーはなるべく引き受けることにしている。

慣れない仕事は心身ともにしんどいことも多いけど、その分やり遂げることができれば自分自身の成長を実感できることを経験則で知っている。外から落語界を眺める機会にもなり、忘れがちな初心を思い出すきっかけにもなる。

先日、依頼メールを見てその思いがけなさについ笑ってしまうくらいの仕事を引き受けた。男子バスケットボールのトップリーグ、Bリーグ1部の開幕戦を直後に控えたオープニングセレモニーが舞台。会場はなんと横浜アリーナ。そこで落語をやってほしいというのだ。

1万人規模、強豪対決、客席360度、生中継…

普段、僕が高座にあがるのは、50人とか100人くらいの会場がほとんど。大きくても300人くらいのキャパだ。一方、横浜アリーナといえば1万人規模の観客が集まる。未知の領域での高座になるのは明白だ。

会場の大きさだけじゃない。「開幕戦」「川崎ブレイブサンダースと宇都宮ブレックスという強豪同士の戦い」「360度、全方向に観客がいる」「テレビの生中継が入る」「持ち時間は3分30秒」「落語らしさを出しつつバスケのトピックも噺(はなし)に入れてほしい」とタフな条件が並んだ。注目度が高い試合で生中継されるのだから、絶対に失敗は許されない。通常は最低でも15分くらい欲しい持ち時間が圧倒的に短い。しかも時間厳守。さすがに「やります」と即答できず、数日間悩んだ。

何度かやり取りするうちに、Bリーグ事務局の方も、制作会社の方も、僕はもとより落語そのものを大事に思ってくださっていることが伝わってきた。そして本気で開幕戦を盛り上げたい、そのためにこれまでとは一味違う趣向として落語を演出に取り入れたいと思っておられることもわかった。それで僕も微力ながら尽力したいと思うようになった。

8月18日公開の当連載で「落語らしさって何だ!? 異業種とのコラボが生んだ疑問」という原稿を書いた。まさに先方と打ち合わせをしていた時期だ。落語らしさを短時間で表現する、その難しさは容易に想像がついた。

これまで色々な案件に取り組む中で、落語らしさが一番でるのは隠居さんや八っつぁんが「会話をする」場面だと気づいていた。そもそも落語はナレーション的な台本上のト書き部分はできるだけ省略するのが良しとされている。あらゆる説明を会話の中に組み込んでしまうのだ。しかしながら、会話のやりとりを落語で表現すると、なんでもないちょっとした内容でもめちゃくちゃ時間がかかる。ト書きだと数秒で処理できることも、会話形式だと数倍の時間を要する。そういう意味で、持ち時間3分30秒は相当高いハードルだ。

また、これまでのオープニングセレモニーの映像を見ると、僕が思っていた以上にド派手なパフォーマンスが繰り広げられていた。格闘技の入場シーンのように、ヒップホップ調の音楽に合わせ、DJ口調でかっこいいあおり文句を並び立てる。レーザー状の照明が会場中を駆け巡る。観客のテンションをぐわーっとあげたところで選手紹介、という流れ。ここで「えー、一席申し上げます」と落語がぬるっと始まるのは想像すらできない。今回のスタッフさんは本気でこれまでになかったセレモニーにしようとされているのだと背筋が伸びた。

Bリーグ公式アカウントで当日の映像が公開されているから、是非そちらも確認していただきたいけど、今回、自分がやるべきことはやれたと思っている。

これまでと一味違う演出だということを強調するために、導入は必要以上に緩いスタイルで。そこから落語らしさの真骨頂である会話形式に移る。しゃべる内容には、バスケ界や両チームのトピックを盛り込む。それでも最後は大事な開幕戦、その空気を壊さないために緊張感をあおるように普段の落語ではあまり用いない講釈調の話法で締める。

3分30秒を3つのパート分けて、針の穴を通すように緻密に構成した。観客の高揚感を少しでも高められたらと考え、要所で韻を踏むなど、これまでの高座では考えもしなかった手法を取り入れもした。終わったいま、明らかに自分が成長できたと実感できている。

ヒーロー気分で帰路に

高座の終わりで、味わったことのない量の拍手が身体に飛び込んできた。楽屋に戻ってツイッターを開くと、すでにたくさんの感想が届いていた。Bリーグの方が特別に用意してくれたプレゼント用ミニ座布団を配布するため、試合の休憩時間に再びコートに立つと、両チームのファンからワーっと大きな声援を送ってもらえた。「面白かったです!」とか「感動しました!」とか、一夜にしてヒーローになれた気分。

試合が終わり、ファンの皆さんの行列に加わって帰路につく。高座で使ったBリーグの大きなロゴ入り座布団を「記念にどうぞ」といただき、手に持っていたこともあって、「道中で皆さんに気づかれてしまうなぁ」と、いつでもサインできるように、ペンをポケットに用意した。横浜アリーナから新横浜駅。そこから、菊名経由で渋谷までの1時間くらいか、都内へ帰るファンで満員になった電車で自分も一緒に帰る。いつもよりも顔を前に向けて表情が周りから見えやすい工夫をした。

が、結局は誰にも気づかれなかった。「そりゃそうだよな」と我に返った僕は、家に帰るとシャワーだけ浴びてすぐに寝た。次の日は朝から神田連雀亭(キャパ38人)の落語会に出演することになっていたから。

立川吉笑
 本名は人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。軽妙かつ時にはシュールな創作落語を多数手掛ける。エッセー連載やテレビ・ラジオ出演などで多彩な才能を発揮。19年4月から月1回定例の「ひとり会」も始めた。著書に「現在落語論」(毎日新聞出版)。

これまでの記事は、立川談笑、らくご「虎の穴」からご覧ください。

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