インフル早くも流行期に 早めのワクチンで重症化予防
Dr.今村の「感染症ココがポイント!」
気になる感染症について、がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長の今村顕史さんに聞く本連載。今回は例年よりも早く流行開始の発表が出始めている「インフルエンザ」を取り上げる。
●今シーズンのインフルエンザは、例年よりも2カ月程度早く流行入りしたが、全国的な流行拡大の時期はまだ分からない(注:流行入りとなった自治体が増えてきていますが、全国レベルでは流行入りとなっていません)
●ここ数年、A型とB型の流行パターンが変則的になっていて、どの型が流行の中心になるのかも予測しづらい
●住んでいる地域で流行が始まっている場合は、早めのワクチン接種を
●ワクチンを接種しても、インフルエンザにかかることはある。手洗いやマスクの着用など日常的な予防もしっかり行う
例年より早めの流行開始、このまま全国に拡大する?
――沖縄県では8月からインフルエンザ流行注意報が発令され、9月末現在では警報レベルに達しているようです。厚生労働省は9月27日に、沖縄や九州を中心に、東京都など10都県でインフルエンザの患者数が流行入りの目安を超えたと発表しました。
沖縄では近年、夏にもインフルエンザの小さな流行が見られます。ただ、現在の流行はその中でもかなり大きなものになっています。九州でも流行が始まり、例えば佐賀県では9月9~15日の週の定点医療機関当たり患者報告数が流行開始の目安である1.0を上回りました。東京都でも9月26日、定点当たり患者報告数が1.0を超えたとの発表がありました。
――インフルエンザの流行入りが発表されている地域では、流行開始が例年よりも2カ月程度早まっているようですが、このまま全国的に拡大していくのでしょうか。
インフルエンザは例年、11月末から12月上旬ごろに流行入りし、年末年始で人の移動が多くなるころに感染者が急増。全国的な流行のピークは1月末から2月上旬ごろとなるのが一般的です。
今シーズン(2019~2020年)は確かに、地域によっては例年よりも早い流行開始となっていますが、現在は散発的な流行が始まったところで、このまま全国的な流行に拡大していくかというと、それはまた別の話になります。
近年は、9月にインフルエンザによる学級閉鎖などが出ることも珍しくなくなっています。例えば、東京都内では、昨シーズン(2018~2019年)の9月3日~23日に、幼稚園と小学校で8件の学級閉鎖や学年閉鎖の報告がありました。今シーズンの同時期(9月2日~22日)には、幼稚園、小学校、中学校で34件の学級閉鎖や学年閉鎖の報告があり、例年よりも多くなっています。
ただ、学級閉鎖などを行うと、地域での感染拡大がある程度は抑えられる傾向があります。そのため、一旦は感染者が減少し、その後にまた増加していくことも考えられます。一方、現在の流行が緩やかに続いていく可能性もあり、現時点では予測が難しいところです。
また、流行開始の報道が出始めると、例年なら今の時期にはインフルエンザを疑わなかった人が検査を受けることで、感染が分かるケースも増えます。そのために、患者数が増加しているように見えることもあるので、しばらくしないと、動向が読みづらいということもあります。
近年はA型とB型の流行パターンが崩れ、変則的に
――昨シーズンはA型インフルエンザに2回かかる人が散見され、そのメカニズムを「インフルエンザ、なぜ2回かかる? 流行過ぎても注意」の記事で解説していただきました。その後にB型インフルエンザにかかった人もいたようですが、今シーズンはA型とB型、どちらが流行しそうでしょうか。
季節性インフルエンザにはA型とB型があり、A型には「AH1pdm09(2009年に新型インフルエンザとして流行した型)」と「AH3(いわゆる香港型)」があります。国立感染症研究所が10月1日に発表した「都道府県別インフルエンザウイルス分離・検出報告状況」では、今のところ「AH1pdm09」が31例、「AH3」が8例、B型が5例となっています。しかし、今の時点ではまだ、どの型が流行の主流になるかは分かりません。
「インフルエンザ、なぜ2回かかる? 流行過ぎても注意」の記事でもお話ししましたが、3年ぐらい前までは、「AH1pdm09」と「AH3」が交互に流行し、年明けから春先にかけてB型が増えるというのが、典型的な流行のパターンとなっていました。
しかし、2017~2018年のシーズンは、当初からB型が流行し始め、ほぼ同時期に「AH1pdm09」、次いで「AH3」が増えました。また、2018~2019年の昨シーズンは、年末までは「AH1pdm09」が流行の中心で、2019年になってからは「AH3」が増加し、その後にB型も増えました。そのため、シーズン中に複数回、インフルエンザを発症する人が増えています。流行のパターンが変則的になっているのに加えて、例年よりも早い流行入りもあり、今後どのような流行の仕方をするのか、経過を見ていく必要があります。
10月上旬現在では、お住まいの地域によって、流行の度合いがかなり違っていると思います。すでに流行が広まりつつあるのを実感している人もいれば、身近にインフルエンザを発症している人はまだいないという人もいるでしょう。いずれにしても、行楽シーズンの秋は人の移動が多くなります。また、今年はラグビーワールドカップが日本で開催されており、オーストラリアやニュージーランド、南アフリカなど、日本とは季節が逆で、インフルエンザが流行していた南半球からの旅行者も多く訪れています。まだ流行が始まっていない地域でも、予防対策はしておいたほうがいいでしょう。
ワクチン接種の目的は、重症化を防ぐこと
――インフルエンザの予防にはどのような対策が有効ですか。
まずは、ワクチンの接種です。特に、インフルエンザにかかると重症化しやすい乳幼児や高齢者、呼吸器に基礎疾患がある人、免疫が低下している人などは、接種しておくといいでしょう。インフルエンザのワクチンは、接種してから抗体がつくまでに約2週間かかります。ワクチンの接種は10月から始まっていますので、お住まいの地域で流行が始まっている場合は、早めの接種が勧められます。
ただし、インフルエンザのワクチン接種は、あくまでも重症化を防ぐことが目的です。ワクチンを接種したとしても、感染することはあります。
――早めにワクチンを接種すると、流行が続く春先まで効果が持たないのでは?と考える人もいるようです。そのため、1シーズンに2回接種をしたほうがいいのだろうかと悩む声も聞かれます。
どんなワクチンでも時間がたてば、徐々に抗体価が低下して、予防効果が薄れていきます。麻疹(はしか)や風疹のように感染を防ぐことが目的のワクチンで、明確な抗体価の目安があるものの場合は、それを維持するために複数回の接種を行います。しかし、インフルエンザのワクチンはそもそも重症化を防ぐことが目的であり、抗体価の目安はありません。2回接種すれば効果が高まるという根拠も特になく、健康な大人の場合は、1回の接種が基本と考えればよいでしょう。
ちなみに、日本の小児科では、生後6カ月以上、13歳未満では、2回接種が推奨されています。WHO(世界保健機関)では生後6カ月から9歳未満で初めて接種する場合は2回で、翌年からは年1回の接種を勧めていて、国際的に共通のルールがあるわけではありません。
――ワクチンを接種したとしても、手洗いなど日常的な予防も必要ですね。
その通りです。インフルエンザの主な感染経路はくしゃみや咳(せき)による飛沫感染ですが、ウイルスが付着した物やドアノブ、手すり、つり革などを手や指で触れ、その手や指で鼻や口、目を触ることでも感染しますので、こまめに手を洗う習慣をつけましょう。アルコール性手指衛生剤での洗浄も有効です。
また、インフルエンザの感染を疑うときや、発症してしまったときには、マスクを着けるようにすると、感染を広めるのを防げます。マスクを外したあとにも、手洗いを忘れないようにしてください(詳細は駒込病院ウエブサイト内「なぜインフルエンザにかかってしまうのか?~原因から考える予防法~」 http://www.cick.jp/column/archives/87 )。
(ライター 田村知子)
がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長。1992年浜松医科大学卒業。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。自身のFacebookページ「あれどこ感染症」でも、その時々の流行感染症などの情報を公開中。都立駒込病院感染症科ホームページ(http://www.cick.jp/kansen/)。
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