個人と企業の関係が変わる今、人事は?人事のための人事講座(1) 2限目 田中研之輔氏に聞く

2時限目 科目 キャリア学講義
講師 田中研之輔氏
法政大学 キャリアデザイン学部教授

たなか・けんのすけ●一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。法政大学キャリアデザイン学部准教授などを経て、2017 年より現職。メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員を務める。専門は、ライフキャリア論、社会学。最新刊に『プロティアン』(日経BP)がある。

個人と企業の関係が変わる今、人事は?

特に大手企業においては、新卒で入社した人々を定年まで長期雇用するのが一般的だった。一生面倒を見てもらう代わりに異動や転勤も会社任せと、個人はキャリア形成を企業に預けてきた。

このような世界観が、急速に変わろうとしている。前項で見た通年採用化に加え、転職する人の増加、副業を許容する企業の増加など、個人と会社の関係が大きく変わろうとしている。そんな時代に、人事担当者はどのように人材育成、キャリア開発のプランを練り直すべきなのか。「プロティアン・キャリア」という新しいキャリアの概念を提案する法政大学教授の田中研之輔氏に聞いた。

個人のキャリアの意識は、これからどう変わっていきますか?

近年、個人のキャリアに対する意識を大きく変えたキーワードとは、リンダ・グラットン氏がその著書『ライフシフト』の中で書いた「人生100年時代」です。今、個人は人生100年に向けて準備を始めているのです。

1社に依存するのでは、人生100年時代のキャリア形成は難しいと考え、組織の壁を超えてバウンダリーに働く人が増えてきました。私が提案する「プロティアン・キャリア」は、まさにバウンダリーな働き方を支持するものであり、すべての個人が重視すべき概念だと考えています。

プロティアン・キャリアとは、1976年に米国の心理学者、ダグラス・ホールが提唱したものです。「プロティアン」とはギリシア神話にある、思いのままに姿を変える神・プロテウスのことであり、プロテウスのように、社会や職場の変化に応じて、柔軟に仕事や働き方を変える変幻自在なキャリアが、プロティアン・キャリアなのです。当時は1つの会社で働き続けてキャリアを終えることが一般的であり、新しすぎる概念として注目されませんでしたが、1990 年代に米国では注目されるようになりました。

米国から後れを取ること30年、日本でも転職することを前提に働く、副業を積極的に行うというように、個人は「自由の翼」を手に入れつつあります。もはや、個人が自由に働く場を移動するという選択に、組織がブレーキをかけるのは難しいでしょう。この個人の意識と行動の変化に企業はついていかなければならないのです。

「自由な」個人を、企業は支援すべき?

従来は、会社の戦略に合わせて、会社の成長を最大化するために、人を異動させたり、昇進させたりするなどして「人材開発」に取り組んできました。今後は、「キャリア開発」に向き合う必要があります。キャリア開発とは、まさに個人の支援です。個人のキャリアに軸を置き、個人のパフォーマンスの最大化が、会社の成長の最大化につながると信じ、それを本気で実践すべく、発想を転換し、各々の強みに合わせた100人100通りの支援をしていくことが求められます。

もちろん、スキルを伸ばして社外に新たなチャンスを求めて転職や独立を選ぶ人もいます。そういう人を含めた組織の内外の人を排除せず、つながり続ければ、変化に強い企業となりえます。そんなプロティアン(変幻自在な)カンパニーであることが今後、企業が生き残る鍵となるでしょう。

個人のキャリア開発のために、どんな支援が有効になるでしょうか?

キャリア開発とはそもそも、これからの自分の行く道を構築するためにあるもの。そのためには、「キャリア資本」を増やすという考え方が重要です。

私は、ビジネス資本、社会関係資本、経済資本の3つを増やすことを推奨しています。ビジネス資本とは、スキル、語学、プログラミング、資格、学歴、職歴などの資本、社会関係資本とは、職場、友人、地域などでの持続的なネットワークによる資本、経済資本とは金銭、資産、財産、株式、不動産などの経済的な資本を示します。企業は給与を与えることで、また、仕事を通じてビジネス資本の一部や経済資本の一部の獲得を支援してきました。今後は、自社で働くためのビジネス資本だけではなく、個人が100年人生を豊かにするための資本形成や、有効なネットワークを増やしていく支援が人事の仕事の1つとなるでしょう。

「具体的には、『プロティアン人材のチェックリスト』を個人が実践できるように、どう支援していくか、知恵を絞ることが重要」と、田中氏。

個人のキャリアの意識は、これからどう変わっていきますか? 採用も変えていく必要がありますか?

採用において、見るべきは個人の「アイデンティティ」と「アダプタビリティ」のバランスです。アイデンティティとは、それまでのその人の経験に基づく、考え方や行動のコアとなっている部分です。一方、アダプタビリティとは、自分が置かれた環境や社会の中に自分を適応させようとする力です。多くの学生は、自己分析などによって得たアイデンティティを大事にし、そこに主眼を置いて就職活動をします。もちろん、自分の強みや弱みに基づいて仕事を選ぶという発想はとても重要ですが、特に変化の激しい時代には、次に何が起こるか誰にもわかりません。自分のアイデンティティに固執することで、成長のチャンスを逸したり、仕事を失うリスクは小さくないでしょう。

今後、求められるのは、社会の変化を読み解く力、それに適応して次の戦略を考えられる力であり、それらを駆使して自ら次のキャリア展開を考えられる力です。つまり、アダプタビリティをもてることこそが、プロティアン・キャリアを実践する条件だとも言えるのです。

企業の採用では、面接で「学生時代にやってきたこと」を問い、それに基づいてその人がやりたいことを聞くというシーンが多く見られます。これは、その人のアイデンティティを見極めるには有効でした。しかし、どんな変化がやってきても耐えうる人材を採用するためには、アダプタビリティを見極めることに主眼を置くべきです。上記のチェックリストを基に学生への質問を検討してみることをお勧めします。

Text:入倉由理子 Photo:刑部友康、宮田昌彦

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