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有力な経済理論がなぜ「使えない」のかを明らかにしようと試みる

有力な経済理論がなぜ「使えない」のかを明らかにしようと試みる

「経済学は世の中の役に立っているのか」。世界で相次ぐ経済政策の失敗を見るにつけ、こんな疑問は強まる一方だ。日本では20年以上もデフレが続くのに、有効な手立てが見つからない。10月には消費税の10%への引き上げが実施されたが、財政赤字縮減の道筋はいっこうに見えないままだ。欧州に目を転じるとマイナス金利が広がるなど、かつてあり得ないとされていた「異常事態」が常態化しつつある。本書『世界をダメにした10の経済学』(関美和訳、日本経済新聞出版社)は、有力な経済理論がなぜ「使えない」のかを明らかにしようと試みている。ビジネスパーソンが楽しみながら経済を学ぶのに好適な一冊だ。

◇   ◇   ◇

著者のビョルン・ヴァフルロース氏はフィンランドの出身で、母国の大学で経済学を学びました。その後、経済学の教授として米国のブラウン大学やノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院などで教壇に立ちます。1990年代に入ると活躍の場を大学から金融界に移し、北欧最大の金融グループのトップに立っています。ビジネスマンとしての豊富な経験にも裏打ちされた書き手による本書は、ともすると難解になりがちな経済理論をわかりやすく解説しています。

「格差是正は経済成長につながる」は本当か

まず批判の対象となるのは『雇用、利子、および貨幣の一般理論』で経済学と経済政策に大きな影響を与えたジョン・メイナード・ケインズの理論です。次いで、『21世紀の資本』がベストセラーになったトマ・ピケティ、格差問題の分析で知られるジョセフ・スティグリッツなどの学説についても欠陥を指摘していきます。著者の見方では、この3人の学者はいずれも高い見識や経済に関する深い知識を備えています。にもかかわらず、有効な処方箋としての経済政策を提案することができていません。その理由について、著者は次のよう見ています。

それなのに、彼ら(経済学者たち=編集部注)はおとぎ話に登場するキツネ同様、知恵はあっても税制度を改善する手立てをほとんど打てずにいる。最低賃金はいまも各国で施政方針のひとつにのぼり(ドイツでは最低賃金を保障する制度が導入された)、ドーハ・ラウンドの貿易自由化交渉は難航を極め、いまだに棚上げされたままだ。
 こうした責任の一端は民主政治にある。「やるべきことはわかっている。でも、それをやったら次の選挙で勝てないだろう」というのは、ルクセンブルクの元首相で欧州委員会委員長を務めるジャン=クロード・ユンケルの有名な言葉だ。
(はじめに|Introduction 6ページ)

グローバルな規模で経済社会環境が激変する中、10年前の常識が通用しない時代になっています。経済学も同じです。古びてきた理論を一度棚卸しして、すべてを疑ってみる必要があるのではないか――。こんな問題意識から著者は次の10の理論を現実と照らし合わせつつ検証することにしました。

【1】緊縮財政は経済成長の足かせになる
【2】資本主義は搾取を生み出す
【3】増税は財政赤字の穴埋めになる
【4】格差是正は経済成長につながる
【5】「インフレ」とは消費者物価の上昇である
【6】市場は非効率である
【7】金利はマイナスにできない
【8】自由市場は存在しない
【9】「陶酔的熱病、恐慌、崩壊」は資本主義の宿痾(しゅくあ)だ
【10】インフレ退治が中央銀行の唯一の仕事である

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