IT先進国エストニア 政府の指導力に学ぶ(加藤出)東短リサーチ社長チーフエコノミスト

慎重な見方をすれば、エストニアの大胆さにはやや危うさも感じられる。急速なIT化とそれに伴う人、モノ、金の移動の自由化が一部でゆがみをもたらしている面もみられるからだ。デンマークのダンスケ銀行などがエストニア支店で行った巨額マネーロンダリング事件などがそれにあたる。

日本の地方再生にヒントも

しかしながらバルト海の小国が「e-Estonia」としてここまで成功することができた理由について同国政府の関係者は、「強いリーダーシップ」の存在を挙げていた。大統領、首相、政府CIO(最高情報責任者)らが「数多くのリスクを伴う決断」をしてきたことが大きいという。政府のIT化推進の狙いの中には、透明性を高めることで共産主義時代から続いていた汚職の構造を断ち切ることも含まれていたもようである。

そうした「強いリーダーシップ」を国民が受け入れたベースには、実は強い危機感があると考えられる。エストニアはロシアと国境を接している。それゆえ同国はEU、北大西洋条約機構(NATO)、ユーロに加盟して西側のサポートを得ようとしてきた。それに加え国際政治の激流に埋没しないよう、「e-Estonia」などによって世界に存在感をアピールし続けることも小国がサバイバルする上で重要と考えられている面があるようだ。政府が外国の高度なIT人材や投資を呼び込むため大量に作成したパンフレットには「e-Estonia」「我々の未来は明るい」(Our future is bright)などと誇らしげに記載されている。

エストニア政府は海外からIT人材や投資を誘致するため様々なパンフレットを作成している

エストニアの手法をそのまま日本に取り込むことは難しい面もあるものの、日本の変革が遅々としているのは切迫した危機感がないからなのかもしれない。ただしエストニアの人口(130万人)は日本でいえば多くの県の規模に相当する。その小国がデジタル革命でここまで世界的にプレゼンスを高めたことを考えれば、日本の地方経済も工夫次第で飛躍のチャンスを得られるのではないかと思われる。

加藤出
1965年生まれ。88年横浜国立大学経済学部卒、同年4月東京短資入社。短期市場のブローカーとエコノミストを兼務後、2002年2月に東短リサーチ取締役、13年2月より現職。マーケットの現場の視点から日銀、FRB、ECB、中国人民銀行などの金融政策を分析する。著書に「日銀、『出口』なし!」(朝日新聞出版、14年)など。
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