2019/10/8

ハーバードが学ぶ日本企業

佐藤 アマゾン・ドット・コムは創業から赤字続きでしたが、ベンチャー投資家はこぞって投資し続けました。アストロスケールに投資をするのも、規模を達成できると見込んでいるからでしょうか。

ナンダ アマゾンは長年、赤字決算を続けてきましたが、キャッシュは潤沢にありました。顧客がアマゾンで買い物をすると、まずアマゾンに代金が入ります。ところが、アマゾンがベンダーにその代金を支払うのは数週間、数カ月後です。この間、多くのキャッシュが自由になり、成長のための投資にまわすことができます。

同じようなビジネスモデルはSaaS(インターネットを経由してソフトウエアを利用するサービス)を提供している企業でも見られます。利用料を先払いしてもらう仕組みになっているため、利益がそれほど出ていなくとも手元のキャッシュを元に成長するこことができるのです。

アマゾンは赤字決算でも売り上げは順調に増やしていましたが、アストロスケールの場合は、いまだ売り上げも計上していません。成長のための原資は、外部からの資金調達でまかなっています。売り上げも、利益も、創出するのはまだまだ先でしょう。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。日本ユニシス社外取締役。

佐藤 ベンチャー投資家は、どのぐらいの期間、猶予を与えてくれるものですか。

ナンダ ベンチャー投資家は通常、それほど長期間、待ってくれません。アメリカのベンチャー投資家の間では、タフテック(Tough Tech=新エネルギー、ロボット、宇宙事業、バイオテクノロジー、創薬など)への投資を敬遠する傾向が強まっています。IT系のソフトウェア企業に投資すれば、たとえレーターステージであっても短期間でリターンを得ることができるのに、これらの分野への投資はリターンを得るのに10年以上もかかってしまう恐れがあるからです。

見逃せない政府系機関からの調達

ではタフテック分野のスタートアップ企業はどのようにアーリーステージで資金を調達すればいいのでしょうか。ここで重要な役割を担うのが、政府や公的機関です。アストロスケールもまた日本の政府系金融機関から一部、資金を調達しています。短期的な利益を追求せず、長期的な視点で投資をしてくれるのは、やはり公的機関であることが多いのです。

佐藤 グローバル・アントレプレナーシップ・モニターの調査によれば、日本の起業環境は先進国の中でも最低ランクです。起業を促進し、イノベーションを創出するために、日本が取り組むべきことは何でしょうか。

ナンダ 国別の起業環境については専門的に研究したことがないので、もう少し大きな枠組みで起業とイノベーションの関係性について、私の考えを述べたいと思います。

アメリカでは、経済学者ヨーゼフ・シュンペーターが提唱した「創造的破壊」という概念が広く支持されてきました。「創造的破壊」とは「利潤獲得のために古いものを破壊し新しいものを創造していくこと」。つまり、企業がイノベーションによって、従来のビジネスを破壊し、新たなビジネスに置き換えていくことが、資本主義経済を発展させていくことにつながる、という考え方です。

また、「革新的なアイデアの多くはスタートアップ企業から生まれる」という考えを支持している経済学者もたくさんいます。「歴史ある企業は強固な組織やプロセスをつくりあげているため、官僚主義に陥りやすい。そのため新しいアイデアを生み出すことが難しい。起業家精神こそが技術の進化に最も必要なものである。イノベーションは起業(ENTRY)と売却(EXIT)の繰り返しによってもたらされる」と信じているのです。確かにアメリカ経済の歴史を振り返ってみれば、破壊的な技術革新を起こしてきたのはスタートアップ企業でした。

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伝統的大企業がイノベーション起こす日本