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俳優人生の転機 小林多喜二の役への思い(井上芳雄)

第53回

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NIKKEI STYLE

井上芳雄です。10月は6~27日まで東京の天王洲 銀河劇場で『組曲虐殺』というお芝居に出ます。井上ひさしさんの遺作となった戯曲で、『蟹工船(かにこうせん)』で知られる作家、小林多喜二の生涯を描いた音楽劇です。10年前に初演して以来、多喜二を演じるのは今回で3回目。僕にとって、俳優人生の大きな転機となった作品です。

タイトルがショッキングなので、どんな怖い話かと思われがちなのですが、実は残酷な場面はほとんどありません。多喜二と、彼を愛した人や支えた人、そして影響を受けて変わった人たちとの心の交流を中心に描いた話です。

昭和の初め。幼い頃から貧しい人々が苦しむ姿を見てきた多喜二は、言葉の力で社会を変えようと思い立ち、プロレタリア文学(労働者階級の立場から社会主義思想に基づいて現実を描く文学)の旗手となります。そのうちに、特高警察に目をつけられ、ひどい検閲を受けたり、治安維持法違反で逮捕されたりします。言論統制が厳しくなっていくなかでも、決して信念を曲げず、潜伏先を変えながら執筆を続けるのですが、最後は特高による拷問を受けて、29歳の若さで亡くなる。その最後の2年9カ月を描いています。

初演のとき、僕は31歳でしたから、多喜二と同年代。井上さんが書く戯曲はその前からとても好きで、出させていただいたのは2作目。主役をやらせていただき光栄でしたが、当時の僕には、背負わなければいけないものがとても大きな作品と役でした。

まず多喜二のことも、プロレタリア作家のことも全然知らなかった。昭和の時代に言論統制や拷問のようなことが実際にあったことも知りませんでした。そんなひどい目にあっても、なぜ多喜二は意志を貫けたのか。彼は貧しい人たちを救いたい、社会をもっとよくしたいという思いが、異様なくらい強かったのです。弾圧を受けて、普通の人なら心が折れたりするでしょうが、決してあきらめなかった。その強さとは、何なんだろうか。そういうことを、ひとつひとつ勉強したり、深く考えたりしながら、取り組んだ役でした。

だからこそ、今振り返ってみると、自分が演劇をやる意味に気づかせてくれた作品となりました。多喜二のように、歴史の中で思いを貫いて死んでいった人や、その時代のことを、次の世代に伝えなければいけない。演劇にはそれができる力がある。それには、自分の芝居がうまかろうが下手だろうが、とにかく体全体でぶつかって、その役に近づくしかない。そういうことを学びました。そして、もっとやっていきたいとも思いました。

 ミュージカルももちろん好きだけど、ただ楽しく明るく豪華な舞台だけをやりたいわけではなくて、シリアスな題材のストレートプレイもやっていきたいと。役を演じるとは、誰かの人生を伝えることだと、初めて気づいたのです。それから、僕の役者としての幅が広がったし、周りが僕を見る目も変わっていったように思います。

そういう意味で、僕にとって大きな転機となった作品です。2009年の初演のあとは、12年に再演があり、今回が3回目。初演から10年がたち、僕も40歳になり、多喜二が生きられなかった10年を経験しました。年を重ねたからといって、多喜二の人としての大きさに近づけたかというと、まだまだ至らないと思います。でも、この10年の間、僕の中には多喜二と井上さんがずっといて、2人に恥ずかしくない自分でありたいと思って生きてきた気がします。そんな10年の間に得たものが、多喜二を演じるうえで何か役に立てばうれしいし、そこが今回のチャレンジでもあると感じています。

「綱を渡す」という思い

言論が統制されて弾圧が激しくなっていく当時の時代背景には、見た人それぞれがいろんな思いを抱くでしょうが、基本的には多喜二がどれだけすてきな人間だったかを描いている作品です。笑いと涙に包まれた、愛すべき人たちの話。そして最後には、お客さまに希望を渡せればいいなと思っています。

人は誰しもやりたいことがあるし、それを成し遂げようと、人生をかけて頑張っていると思います。でも、自分たちの生きている間にはなし得ないこともたくさんだろうし、むしろほとんどがそうかもしれない。けど、次の世代やその次の世代がなし得るかもしれない。引き継いでくれるかもしれない。

劇中で多喜二は「綱を渡す」と言っています。「次の世代のために、自分は頑張るんだ」と。それは『組曲虐殺』が最期の戯曲となった井上さんの思いでもあっただろうし、多喜二もそう信じていたと思います。そして僕も、井上さんや多喜二から綱を渡された者の1人として、未来に希望があることを信じて、3回目の多喜二に臨みます。

井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第54回は10月19日(土)の予定です。

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