「父親が育休取ると子の偏差値があがる」って本当?東京大学大学院 山口慎太郎准教授(上)

山口さんは「一定期間を妻と一緒に子育てに専念できました。子育てをイチから始める時間が取れたことで、子どもにも愛着が持てましたし、父親としての自覚も育ったと思います」と語る

上司の育休が最も部下の育休取得を後押しする

白河 やはり言葉ではなく、実態としての証明が効果的なのですね。

山口 それも、自分との関係性が近い人からの影響度がより高いことが分かりました。調査によると、周りの同僚や兄弟に育休を取得した男性がいた場合には、育休取得率が11~15ポイントも上昇しています。近所の人や義理の兄弟では、ここまでの影響度はないようです。最も大きな影響力があるのが、上司です。男性の上司が育休を取ったときに部下に与える影響は、同僚間の2.5倍に上ることが分かっています。

白河 2.5倍ってすごいですね。やっぱり、上司が率先して育休を取ることは大切なんだ。最近の若いベンチャー経営者の中には、社長自ら育休を取る人も増えています。例えばメルカリとか。彼らに聞くと「社長が率先して取ることの効果」は大きかった。どんどん後に続いてほしいですね。

「家族の幸せ」の経済学(光文社新書、https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334044220)

山口 だんだんと育休を取る男性が増えることで、懐疑的だった人の意識も変わってくるのでしょう。結果、7割の男性が育休を取る社会へと変わったんですね。

白河 キャリアに悪影響がないことも認知されたのでしょうか。

山口 所得面で言うと、ある研究では、ノルウェーでは育休取得から数年後には2%減ったという結果が出ているのですが、これは「より家族との時間を重視するライフスタイルを選択した結果」という見方もできます。その場合は、本人が納得して選択しているので問題にはなりません。問題はこの所得の減少がペナルティーによるものである場合ですが、すでに7割という多数派が育休取得する社会においては、その多数派にペナルティーを課す判断は起こり得ないでしょう。

白河 日本では、男性育休の取得期間についても議題になっています。ノルウェーの場合は、平均してどのくらいなのでしょう?

山口 法律上、給料同額が保障されるのが4週なので、だいたい1カ月ほどだと思います。

白河 長いですね。日本ではまだ平均して5日とか1週間足らずの短期間にとどまっています。フランスでの取り組み「父親産休」では2週間。これがとても評判がいいので、今後さらに4週まで増やそうという案も挙がっているそうです。2週間程度でいいのか、やはり1カ月は取ったほうがいいのか。最適な期間はどのくらいだと思いますか?

山口 私自身の経験から考えても、生後2週間ではバタバタと慌ただしく過ぎてしまって。夫婦一緒に子育て生活に慣れていくには、やはり1カ月は必要ではないかと思います。1カ月程度であれば、「仕事の勘が鈍るのでは」という不安もそれほど感じられないでしょう。

白河 父親が1カ月育休取得することで、パートナーや子どもとの関係、家庭環境にもプラスの変化が生まれると言えますか。

夫婦一緒に子育てに慣れるには1カ月は必要

山口 はい。代表的な研究としては、カナダのケベック州で行われた調査があります。同州で育休改革が起きた後、父親の時間の使い方の変化を観察したところ、より家事・子育てに時間を使うようになることが分かったんです。驚くべきなのは、その変化が育休期間中のみに起きたのではなく、その後、子どもが3歳になった時点でも続くという点。つまり、子どもが産まれてすぐの1カ月間の父親の関わりは、その後の自身の人生や家族に大きな変化を生み出しているということ。非常に面白い変化だと注目しています。

私自身は、カナダのオンタリオ州で大学教員をしていたときに子どもが産まれまして、ちょうどサバティカル期間(職務を離れて自主研究のために時間を使える期間)だったために、妻と一緒に子育てに専念できました。はじめの2週間ほどは妻の母が来てくれて手伝ってくれましたが、基本は夫婦二人で、子育てをイチから始める時間が取れたことで、子どもにも愛着が持てましたし、父親としての自覚も育ったと思います。

白河 とてもいい形で子育てのスタートアップをされたんですね。日本の男性育休の現状としてよく聞くのは、ただでさえ短い5日程度の休みを、妻の入院中に取ってしまって、全然役立つ出番がないとか(笑)。あるいは長い「里帰り出産」から妻子が戻ってきたときには、すっかり「ママだけベテラン」になってしまって、出遅れてしまうそうです。

山口 本来であれば、妊娠中から男性ももっと関わっていくほうがいいですよね。マインドを変えていくにはそれなりの時間がかかると思うので。