「父親が育休取ると子の偏差値があがる」って本当?東京大学大学院 山口慎太郎准教授(上)

2019/10/16
東京大学大学院経済研究科准教授。1999年慶応義塾大学商学部卒業。カナダ・マクマスター大学助教授、准教授を経て、17年より現職。専門は、結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」と、労働市場を分析する「労働経済学」(撮影:吉村永)
東京大学大学院経済研究科准教授。1999年慶応義塾大学商学部卒業。カナダ・マクマスター大学助教授、准教授を経て、17年より現職。専門は、結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」と、労働市場を分析する「労働経済学」(撮影:吉村永)

結婚・出産・子育てというライフイベントを経済学の観点から分析、「家族の経済学」として発表しているのが東京大学大学院の山口慎太郎准教授だ。父親と母親は育休期間をどれぐらい取るべきか、など最新の研究成果について伺った。

日本の男性育休制度は世界トップクラス

白河桃子さん(以下敬称略) 山口先生は米国、カナダでの研究活動を経て、2年前に帰国されました。著書『「家族の幸せ」の経済学』を興味深く拝読しました。今日は、日本の女性がより長くパフォーマンスを発揮し続けるために必要な条件について、諸外国の研究事例も交えて教えていただきたいと思います。ご自身も子育て中のパパでいらっしゃるそうですね。

山口慎太郎准教授(以下敬称略) はい。カナダ赴任中に第1子が誕生しまして、妻と2人で子育てしています。

白河桃子さん

白河 まず、注目が集めている「男性育休」について。私も男性の育休「義務化」を目指す議員連盟の民間アドバイザーを務めているのですが、啓発を地道に続けてきた過去11年の結果が、「男性育休取得率6.16%(2018年度の厚生労働省雇用均等基本調査より。11年度は2.63%)」と微々たる伸び。日本の男性たちはなかなか育休を取らない、あるいは取りたくても取れないようです。ところが、国際比較すると、日本の育休制度そのものはかなりいいそうですね。

山口 はい。育休制度の良しあしを比較する際には、期間と金額の2つの物差しで議論をします。つまり、「どれくらいの期間、育休が取れるか」と「給付金をどのくらいもらえるか」。日本は男性に認められる育休期間の長さでは韓国と並んで世界トップクラス。かつ、国連児童基金(ユニセフ)が今年発表した「育休の週数×給付金」で測る男性育休の充実度では、日本は経済協力開発機構(OECD)と欧州連合(EU)加盟国41カ国のうち第1位に。しかしながら、「実際に取得する人は非常に少ない」と注釈が付けられているんです。日本は「制度だけ育休先進国」なんです。

白河 素晴らしい制度があっても、それを使えない男性が多いのはなぜだと思いますか?

山口 いくつかの国内調査によると、「仕事が忙しく、同僚や上司の目が気になって取れない」という声が多いですね。実はこれ、諸外国の調査を見ても、同じような心理的ハードルは存在するようです。実際、私が米国で働いていたときも、米国人の同僚たちが職場では非常にお互いに気遣った話し方をしていたのが印象的でした。なんとなく「外国人は日本人と比べて、周りの目を気にせずハッキリと自己主張をする」というイメージを持っていたので、意外でした。

白河 多様性のある社会だから、余計に気遣いが必要になるのかもしれないですね。そして海外でも「人の目が気になって……」という事情は同じなんですね。

山口 そうですね。では、「上司・同僚の目が気になって、男性が育休を取りにくい」という状況を、諸外国ではどのように克服したのか。この点ではノルウェーの事例が参考になります。ノルウェーは今でこそ男性育休の取得率が7割を超えていますが、1993年に育休改革が行われるまではわずか3%でした。歴史的な経緯を述べると、77年に有給の育休取得を認める法律ができ、それから93年に育休として認められた42週のうち4週を父親に割り当てられる法律改正があり、普段の給料と同額の収入が保証されるようになると、一気に35%に。ここからさらに伸びを見せ、06年に70%に達しています。

白河 13年で倍になって、男性の大多数が育休を取る社会に転換したのですね。

山口 この間に何が起きていたのかを研究者が調べたところ、男性が育休取得を決断する上で「身近な人のモデルケース」が大きな後押し要因になることが分かったそうです。90年代に35%まで伸びた時点では、まず一部の勇気ある男性たちが育休取得に踏み切った。その後、彼らが職場で不当な扱いを受けずに、仕事と私生活の両面を充実させている様子を見て安心した周りの男性たちが、「どうやら育休を取っても、評価が下がったり、白い目で見られたりするデメリットはなさそうだ。だったら自分も取ろう」と後に続いた。