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「父親が育休取ると子の偏差値があがる」って本当?

東京大学大学院 山口慎太郎准教授(上)

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NIKKEI STYLE

結婚・出産・子育てというライフイベントを経済学の観点から分析、「家族の経済学」として発表しているのが東京大学大学院の山口慎太郎准教授だ。父親と母親は育休期間をどれぐらい取るべきか、など最新の研究成果について伺った。

日本の男性育休制度は世界トップクラス

白河桃子さん(以下敬称略) 山口先生は米国、カナダでの研究活動を経て、2年前に帰国されました。著書『「家族の幸せ」の経済学』を興味深く拝読しました。今日は、日本の女性がより長くパフォーマンスを発揮し続けるために必要な条件について、諸外国の研究事例も交えて教えていただきたいと思います。ご自身も子育て中のパパでいらっしゃるそうですね。

山口慎太郎准教授(以下敬称略) はい。カナダ赴任中に第1子が誕生しまして、妻と2人で子育てしています。

白河 まず、注目が集めている「男性育休」について。私も男性の育休「義務化」を目指す議員連盟の民間アドバイザーを務めているのですが、啓発を地道に続けてきた過去11年の結果が、「男性育休取得率6.16%(2018年度の厚生労働省雇用均等基本調査より。11年度は2.63%)」と微々たる伸び。日本の男性たちはなかなか育休を取らない、あるいは取りたくても取れないようです。ところが、国際比較すると、日本の育休制度そのものはかなりいいそうですね。

山口 はい。育休制度の良しあしを比較する際には、期間と金額の2つの物差しで議論をします。つまり、「どれくらいの期間、育休が取れるか」と「給付金をどのくらいもらえるか」。日本は男性に認められる育休期間の長さでは韓国と並んで世界トップクラス。かつ、国連児童基金(ユニセフ)が今年発表した「育休の週数×給付金」で測る男性育休の充実度では、日本は経済協力開発機構(OECD)と欧州連合(EU)加盟国41カ国のうち第1位に。しかしながら、「実際に取得する人は非常に少ない」と注釈が付けられているんです。日本は「制度だけ育休先進国」なんです。

白河 素晴らしい制度があっても、それを使えない男性が多いのはなぜだと思いますか?

山口 いくつかの国内調査によると、「仕事が忙しく、同僚や上司の目が気になって取れない」という声が多いですね。実はこれ、諸外国の調査を見ても、同じような心理的ハードルは存在するようです。実際、私が米国で働いていたときも、米国人の同僚たちが職場では非常にお互いに気遣った話し方をしていたのが印象的でした。なんとなく「外国人は日本人と比べて、周りの目を気にせずハッキリと自己主張をする」というイメージを持っていたので、意外でした。

白河 多様性のある社会だから、余計に気遣いが必要になるのかもしれないですね。そして海外でも「人の目が気になって……」という事情は同じなんですね。

山口 そうですね。では、「上司・同僚の目が気になって、男性が育休を取りにくい」という状況を、諸外国ではどのように克服したのか。この点ではノルウェーの事例が参考になります。ノルウェーは今でこそ男性育休の取得率が7割を超えていますが、1993年に育休改革が行われるまではわずか3%でした。歴史的な経緯を述べると、77年に有給の育休取得を認める法律ができ、それから93年に育休として認められた42週のうち4週を父親に割り当てられる法律改正があり、普段の給料と同額の収入が保証されるようになると、一気に35%に。ここからさらに伸びを見せ、06年に70%に達しています。

白河 13年で倍になって、男性の大多数が育休を取る社会に転換したのですね。

山口 この間に何が起きていたのかを研究者が調べたところ、男性が育休取得を決断する上で「身近な人のモデルケース」が大きな後押し要因になることが分かったそうです。90年代に35%まで伸びた時点では、まず一部の勇気ある男性たちが育休取得に踏み切った。その後、彼らが職場で不当な扱いを受けずに、仕事と私生活の両面を充実させている様子を見て安心した周りの男性たちが、「どうやら育休を取っても、評価が下がったり、白い目で見られたりするデメリットはなさそうだ。だったら自分も取ろう」と後に続いた。

上司の育休が最も部下の育休取得を後押しする

白河 やはり言葉ではなく、実態としての証明が効果的なのですね。

山口 それも、自分との関係性が近い人からの影響度がより高いことが分かりました。調査によると、周りの同僚や兄弟に育休を取得した男性がいた場合には、育休取得率が11~15ポイントも上昇しています。近所の人や義理の兄弟では、ここまでの影響度はないようです。最も大きな影響力があるのが、上司です。男性の上司が育休を取ったときに部下に与える影響は、同僚間の2.5倍に上ることが分かっています。

白河 2.5倍ってすごいですね。やっぱり、上司が率先して育休を取ることは大切なんだ。最近の若いベンチャー経営者の中には、社長自ら育休を取る人も増えています。例えばメルカリとか。彼らに聞くと「社長が率先して取ることの効果」は大きかった。どんどん後に続いてほしいですね。

山口 だんだんと育休を取る男性が増えることで、懐疑的だった人の意識も変わってくるのでしょう。結果、7割の男性が育休を取る社会へと変わったんですね。

白河 キャリアに悪影響がないことも認知されたのでしょうか。

山口 所得面で言うと、ある研究では、ノルウェーでは育休取得から数年後には2%減ったという結果が出ているのですが、これは「より家族との時間を重視するライフスタイルを選択した結果」という見方もできます。その場合は、本人が納得して選択しているので問題にはなりません。問題はこの所得の減少がペナルティーによるものである場合ですが、すでに7割という多数派が育休取得する社会においては、その多数派にペナルティーを課す判断は起こり得ないでしょう。

白河 日本では、男性育休の取得期間についても議題になっています。ノルウェーの場合は、平均してどのくらいなのでしょう?

山口 法律上、給料同額が保障されるのが4週なので、だいたい1カ月ほどだと思います。

白河 長いですね。日本ではまだ平均して5日とか1週間足らずの短期間にとどまっています。フランスでの取り組み「父親産休」では2週間。これがとても評判がいいので、今後さらに4週まで増やそうという案も挙がっているそうです。2週間程度でいいのか、やはり1カ月は取ったほうがいいのか。最適な期間はどのくらいだと思いますか?

山口 私自身の経験から考えても、生後2週間ではバタバタと慌ただしく過ぎてしまって。夫婦一緒に子育て生活に慣れていくには、やはり1カ月は必要ではないかと思います。1カ月程度であれば、「仕事の勘が鈍るのでは」という不安もそれほど感じられないでしょう。

白河 父親が1カ月育休取得することで、パートナーや子どもとの関係、家庭環境にもプラスの変化が生まれると言えますか。

夫婦一緒に子育てに慣れるには1カ月は必要

山口 はい。代表的な研究としては、カナダのケベック州で行われた調査があります。同州で育休改革が起きた後、父親の時間の使い方の変化を観察したところ、より家事・子育てに時間を使うようになることが分かったんです。驚くべきなのは、その変化が育休期間中のみに起きたのではなく、その後、子どもが3歳になった時点でも続くという点。つまり、子どもが産まれてすぐの1カ月間の父親の関わりは、その後の自身の人生や家族に大きな変化を生み出しているということ。非常に面白い変化だと注目しています。

私自身は、カナダのオンタリオ州で大学教員をしていたときに子どもが産まれまして、ちょうどサバティカル期間(職務を離れて自主研究のために時間を使える期間)だったために、妻と一緒に子育てに専念できました。はじめの2週間ほどは妻の母が来てくれて手伝ってくれましたが、基本は夫婦二人で、子育てをイチから始める時間が取れたことで、子どもにも愛着が持てましたし、父親としての自覚も育ったと思います。

白河 とてもいい形で子育てのスタートアップをされたんですね。日本の男性育休の現状としてよく聞くのは、ただでさえ短い5日程度の休みを、妻の入院中に取ってしまって、全然役立つ出番がないとか(笑)。あるいは長い「里帰り出産」から妻子が戻ってきたときには、すっかり「ママだけベテラン」になってしまって、出遅れてしまうそうです。

山口 本来であれば、妊娠中から男性ももっと関わっていくほうがいいですよね。マインドを変えていくにはそれなりの時間がかかると思うので。

白河 フランスの場合、国家の強い主導で「男性を父親にする国家プロジェクト」として制度改革が進んだそうです。あと、先生の本の中で思わず注目してしまったのが、「父親が育休取得すると、子どもの偏差値が上がった」というデータ。これはどういう関係が?

山口 先ほどのノルウェーの調査ですね。父親が育休取得した場合、育休取得しなかった場合と比べて、子どもが16歳になった時点の偏差値平均が1上がったそうです。研究チームは、「子育ての開始期間の父親の関わりが、その後の教育面での関わり方も積極的に変えたのでは」と考察しています。

白河 なるほど。子どもの発達にプラスの影響があり、そしてパパ自身のキャリア面でもデメリットがないとなれば、育休取得を選択する男性は自然と増えていきそうですね。私も政府に提言するときはフランスを習って「まず2週間から」と言っていましたが、まだ甘いですね。海外の成功事例を根拠に、「1カ月100%取得」くらい言わなければと思いました。

一方で女性のほうも、まだまだ「出産・育児はキャリアにマイナスになる」というイメージは根強い。それは女性側だけでなく、企業側の意識もそうで、ある日本企業での調査によると、育休取得の有無とキャリア展望の関係を見ると、育休取得経験のない女性のほうが管理職候補になりやすい。上司としては、積極的に候補から外しているというより、「よく分からないから保留にしておこう」という判断になってしまうようです。かなり明確な違いが出ていたので衝撃的でした。

山口 なるほど。「育休からの復帰スピードが早い女性ほど、その後に出世しやすい」という調査結果もあります。たとえ能力に差はなかったとしても、「私はこんなにやる気があるんです」というアピールになっている可能性がある。本人の意思であれば問題ありませんが、もし「早く復帰しなければ出世に響く」というプレッシャーになっていたとしたら、よくないことですね。

これに近い研究で、労働時間と昇進確率の関係を見た調査があるのですが、超長時間労働をすると急に昇進確率が上がるというパターンが見られるんです。「働く時間を蓄積するほど能力が上がって、結果として評価が上がる」というのは理解できることですが、「ものすごく残業をすれば出世しやすくなる」という図式があるとしたら、明らかにアピール効果ですね。

白河 つまり、能力ではなく「やる気」を労働時間をベースに見られている、と。まさに、男性の育休推進とは逆行する考え方。働き方改革以降は改善されると信じたいところですね。ここはぜひ、環境相に就任された小泉進次郎さんにも育休を取っていただいて、強い追い風を吹かせてほしいですね。

山口 影響力のあるリーダーが率先することが大事だと私も思います。

(次週公開の後編では保育園生活が母子にもたらす好影響、育休期間の長さはどれぐらいが適当か、女性がキャリアを継続することの意味などについてお伺いします。)

白河桃子
 少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大客員教授。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員。東京生まれ、慶応義塾大学卒。著書に「妊活バイブル」(共著)、「『産む』と『働く』の教科書」(共著)、「御社の働き方改革、ここが間違ってます!残業削減で伸びるすごい会社」(PHP新書)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプラン講座」を大学等で行っている。最新刊は「ハラスメントの境界線」(中公新書ラクレ)。

(ライター 宮本恵理子)

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