上海インテリア見本市、中国の勢いと歴史を実感
納富廉邦のステーショナリー進化形
上海市で開催されたインテリアとライフスタイル雑貨の国際見本市「インテリアライフスタイル チャイナ」。そこを訪れたライターの納富廉邦氏は中国ならではの展示やユニークな視点に驚いたという。納富氏が気になったブースやグッズを紹介する。
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2019年9月11日~13日、中国の上海展覧センターで行われた、「インテリアライフスタイル チャイナ」は、いわゆる産業見本市とは少し趣が違う、デザインと生活を結びつける「スタイル」を展示する試みとなっている。それは、東京で行われている「インテリアライフスタイル東京」も同様で、展示会そのものが出展社の数や製品のバリエーションを競うものではない。主催社が、世界でも最大級の規模を誇りながら、その出展スタイルに高い美意識を持つドイツ・フランクフルトの商材見本市「アンビエンテ」を開催していることもあり、あくまでも、その展示会は、人の生活にテーマを置いたものになっているのだ。
会場が、繁華街にある上海展覧センターだというのも、そのコンセプトの一環だろう。一般的な工業製品見本市よりも、文化的側面の強い展示会を多く開催する会場が選ばれているのだ。小振りの会場は、旧中ソ友好記念会館をリフォームしたもの。ヨーロッパの古い建築様式を模した格調高い建造物で、展示会場としては窓が多く、屋根が高く、落ち着いたムードで、ゆったりと展示を眺めることができた。また、会場内にカフェやイートイン、休憩所も多く設置され、ビジネス向けの展示会とは思えない居心地の良さもあった。
展示は、アンビエンテに倣って、大きく「ダイニング」「リビング」「ギビング」の3つの展示エリアに分かれ、さらに「ギフティーク」と名付けられた、今年のメインテーマの展示スペースがある。
「ギフティーク」はギフト用途を中心とした、これからの中国の生活を彩るアイテムを紹介する展示で、日本のメーカーも数多く参加していた。展示のデザインを行ったのは日本のデザインユニットSOL Style。出展社の多くは台湾の代理店が監修していた。
ブースデザインから、よくあるコマ単位のディスプレーではなく、それぞれのブランドが、それぞれの意匠に合わせたレイアウトを展開していて、まるでセレクトショップの集合体のような展示になっていたのが印象的だった。メーカーやブランドの名前よりも、展示品を押し出した形の展示スタイルは、今後の展示会のヒントになるように思えた。企業ピーアールではなく、製品の魅力で見せるスタイルと物販の組み合わせは、これからの展示会が生き残るスタイルの一つだろう。
今回は「インテリアライフスタイル チャイナ」で気になったブースや製品を紹介したい。
日本メーカーも出展
日本メーカーで大きなブースを構えていたのが中川政七商店(奈良市)。中国でも、オシャレ雑貨ブランドとして人気らしく、ちょっと気合を入れたプレゼントなどに使う中国人が多いという。日本の民芸品のミニチュアや豆皿などが、そのまま展開されていて、それが上海の人たちに受けているというのは興味深い。
インテリアとしても飾れる標本で人気のウサギノネドコ(京都市)による「Sola cube」は、その標本としてのたたずまいから、中国市場にも似合うと思っていたのだが、実際、ブースがにぎわっていた。そして、やはり人気なのはタンポポだというのが面白い。ふわふわの、あの綿毛がそのままアクリルで固められている不思議さに対する感覚は、万国共通なのだろう。
アンティークおもちゃを今のセンスで再生
中国の古いオモチャのコレクターが創業したという「セイント・ジョン」のブースも印象に残った。コレクションのアンティークのオモチャにヒントを得て、新しくリデザインして製品化したものを扱うメーカーだ。日本でいうブリキのオモチャのような製品なのだが、デザインが独特で、また動きが日本のものとは全く違っていて面白い。古いデザインをそのまま復刻するのではなく、アンティークの良さを残しながら、今のインテリアとして通用する色や形に仕立てるセンスがなかなかのもの。中には、日本のおもちゃコレクターとのコラボレーション製品もあった。
日本でも売ってほしいリトアニアのバッグ
ギフティークのフロアの中に、特集展示として、リトアニアのブランドが並ぶブースがあって、このコーナーが面白かった。
特に目を引いたのは、リトアニア産の琥珀(こはく)石を加工して作ったエレキギター。ボディーは小振りに仕上げられているものの、ズッシリと重く、楽器というより工芸品(実際、触らせてもらおうとすると宝石用の手袋を渡された)で、デザイナー自身もコレクターズアイテムだと言っていた。とはいえピックアップにレースセンサーの新型を使うなど、楽器としても考えて作られていた。
同じくリトアニアのindigoというデザインとテキスタイルのメーカーによるカジュアルなバッグも面白かった。
最近、見掛ける機会が増えた、ストラップの扱い方でいろんな形で持ち歩けるタイプのバッグで、ショルダーバッグにもリュックにもワンショルダーにもなるという製品だが、そこに素材の面白さを加えたところが良かった。厚手のファブリックやポリプロピレン(PP)素材などを使って、同じデザインながら質感を変え、シンプルなデザインながら、ちょっと折り曲げ方を変えるだけでイメージが変わる。しかも、基本的にはザックリと物を入れる袋状のトートバッグだから、その生地の質感で使い勝手も変わる。サイズと素材で使い勝手自体を変えているというのが面白いのだ。すぐにでも欲しいと思わせる魅力があった。これ、日本でも売るといいと思う。
カバンの中に収まる水筒も
「ダイニング」のコーナーで印象的だったのは、マイセンが大きなブースを構えていたこと。アンビエンテならともかく、東京のこの手の展示会で、海外のハイブランドが大きなブースを展開するのは近年、見掛けない。しかもヒストリカルな製品をそろえて、マイセンというメーカーを強くアピールする構成。もっとも、中国はやはりお茶の国らしく、他のブースでも茶器関係は充実していたのだが、それを踏まえてもマイセンの本気の規模には驚いた。ハイブランド市場としての中国の力を見た気がした。
茶器関係で面白かったのは、多様屋というセレクトショップのブースで見つけた茶こし付きのマグカップ。中国では茶葉を直接カップに入れて飲むスタイルも一般的で、それだけに茶こし付きのマグカップも古くからある。しかし、ここで見たのはそれらを合理的にした上でデザイン的にもスッキリさせたもの。飲み口のところにのみ、茶こしを付けているのだ。これなら茶葉を入れてお湯を注げばすぐに飲めるし、洗うのも簡単。外観もオシャレなマグカップで、ツヤ消しのカラーリングもうまい。古くからある茶器が確実に今の視点でデザインされている。
ファイル型のフラスコ「memobottle」も気になった。A5サイズからA7サイズまでのフラットなウォーターボトルで、革やポリプロピレンのカバーが付いている。つまりはカバンの中にフィットする水筒だ。こういう製品を実際に作ってくるのが、お茶の国らしさではないだろうか。しかも、ちゃんとデザインされた製品に仕上げている。
ライフスタイルの手本は日本だが
インテリアライフスタイル チャイナを見て印象に残ったのは、その玉石混交な世界観だ。洗練された製品の展示の一方で、実演販売的な演出のブースも多く、また展示会場内に屋台村的な飲食ブースを設けるなど、独特なムードもある。この多様性がこれからの中国の都市部のライフスタイルにどういう影響を与えるのか興味深い。
今回の取材では上海の最先端デザインショップにも立ち寄ったのだが、彼らの話によると、現在の上海の人々は、ライフスタイルのお手本として日本に注目しているのだそうだ。実際、インテリアライフスタイルの展示だけを見ると、デザインと生活の融合という意味でも、製品のクオリティーやアイデアでも、まだかなり日本が先行している。
しかし、実際の生活や環境では既に追い越されているのではないかと感じる部分も多い。取材をしたショップもオーナーが趣味でやっている感じが強く、しかし、それが十分な売り上げを実現しているというのが、何ともうらやましい。カフェやインテリアショップなどの空間の居心地の良さに関しては、上海の方が洗練されている気もする。長い歴史を持つ街だけに、都会としての年季が違うといえるかもしれない。
佐賀県出身、フリーライター。IT、伝統芸能、文房具、筆記具、革小物などの装身具、かばんや家電、飲食など、娯楽とモノを中心に執筆。「大人カバンの中身講座」「やかんの本」など著書多数。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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