親と死別、友達もいない 孤独と不安に立ち向かうには
「不惑」といわれる40歳を過ぎても、人生は迷うこと、悩むことばかり。楽になったこともあるかと思えば、新たな問題も出てきたりして……。そんな「もやもや」について、精神科医である水島広子さんに相談します。
親との死別は「悲しみの期間」に時間をかける
親御さんとの死別は「喪失」を強く感じさせるものですね。そういう時期に孤独を感じるのは当然のことだと思います。無理に明るくすることなく、「悲しみの期間」に時間をかける必要があります。「親もいなくなってしまった。私は孤独だ」という感情だけでなく、親御さんとの歳月を思い出し、できれば親御さんをご存じだった方と思い出話をするのも効果的です。
親を失うというのは人生のいろいろな時期に起こりうるものですが、ご相談者の場合、ちょうど「老後を考えると不安」という時期に重なってしまっています。50代は「老後」を考える時期だとも言えます。仕事がなくなったときの自分がどうやって生きていくのか、リアルに考えるようになる時期なのです。これは親との死別とはまた別の、不安を生むテーマです。
この2つの大きなことが重なってしまっているというのが現状で、それは大きな孤独感や不安につながって当然だと思います。
それでもこの方の場合、「学校や会社などその時々で所属するコミュニティーはありましたし、仕事など目の前のことに追われ、自分のコミュニケーション能力不足を深く考える機会はそうありませんでした」というところが一つのカギになります。
親しい友人をつくることを目標にしない
というのは、人間は「役割」を与えられた方がずっと他人とコミュニケーションをしやすいからです。最も難しいのが、単なる雑談だと思います。何を話したらよいのか、どう付き合ったらよいのかがわかりにくく、まさに「空気を読む」ことが必要になるからです。
ですから、今後へのお勧めとしては「役割」のある場を選んでいくこと。何かのボランティアでもよいのです。人と会話することなしには仕事にならないでしょう。そういう、「役割」のある場で、その時々に集中して過ごしていくと、孤独感も軽減してきます。
その中でとても親しい友人ができることもあるでしょうが、それはそれでよいとして、ここでは目標にしないようにします。大切なのは「今」というキーワード。何らかの役割に集中することです。目の前のことに集中すれば、孤独感や不安から解放されます。それでもまだ感じるようでしたら、まだまだ集中していないということになるでしょうから、もっと集中するようにしましょう。
「今への集中」をし、できれば人を助けることを
そのような「役割」を複数持つのもよいですし、複数を同時にこなすのが苦手な方は一つにじっくり取り組むのでもよいと思います。
とにかくキーワードは「今への集中」。できれば、人を助ける性質のことをすれば、「社会に役立っている」という感覚も得られ、なおよいでしょう。ただ、孤独感を軽減するためには、人との関わりを求めるのではなく、現在へ集中するのだ、と考えれば何歳になっても、形は「一人」でも、感覚は孤独にならないと思います。さらにある程度の年齢になれば、多くの人から見て「年長者」になります。ですから、例えば宅配便を届けてくれる人に「暑いのにご苦労さまね」とねぎらう言葉をかけるだけでも、ずいぶん自分の孤独が解消されるものです。
精神科医。1968年東京都生まれ。慶応義塾大学医学部卒業、同大学院修了(医学博士)。摂食障害、気分障害、トラウマ関連障害、思春期前後の問題や家族の病理、漢方医学などが専門。慶大医学部精神神経科勤務を経て、民主党の公募・落下傘候補として2000年6月の衆議院選挙で栃木1区から初当選。2005年8月まで2期5年間をつとめる。現在、アティテューディナル・ヒーリング・ジャパン(AHJ)代表、対人関係療法専門クリニック院長、慶応義塾大学医学部非常勤講師(精神神経科)、対人関係療法研究会代表世話人などを務める。心の健康のための講演や執筆も多くこなしている。2児の母。
[日経ARIA 2019年6月28日付の掲載記事を基に再構成]
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