ハヤカワ五味の読書術 短期集中、筋トレ式で量こなせ
「私はこうして成功した」「人生が変わる○○」――。ビジネス書の表紙には、すぐにでも自分を変えてくれそうな言葉たちが並んでいます。でも、読んだ結果「変われた?」と問われると自信がない。キラキラした言葉に振り回されるだけで終わらない、意味のある「読書」をするにはどうしたらいいのでしょうか。課題解決型アパレルブランドを展開するウツワ代表取締役のハヤカワ五味さんに聞きました。
課題に直面したときのヒントを探して
大学在学中に胸が小さな女性向けのランジェリーブランド「feast」を立ち上げ、ネットで影響力を持つインフルエンサー、ラジオやインターネットテレビ局のパーソナリティーとしても活躍中のハヤカワ五味さん。代表取締役を務めるウツワでは、女性の悩みに寄り添ったデザインの衣類を作り出しています。
SNSで積極的に発信しているハヤカワさんですが、お薦め本や自宅の本棚をアップする「読書家」としての姿も垣間見えます。ただ、意外にも「冊数」を読むようになったのは2018年ごろからと最近のことだとか。
「昔から本は読んでいましたが、大学時代は年間15~20冊ぐらいと多くはありませんでした。今のようにアウトプットばかりしていると、自分が枯渇してしまうんです。誰かに何かを伝えたいときに伝える言葉がなかったり、正しく伝えられなかったりするのは、もどかしい。本を読まないでいるほうが苦しいので、常に読んでいますね」
ビジネスで課題に直面したときに知識を活用できるのはもちろん、同世代からキャリア相談などを受けたときにも本が役立つといいます。
「同世代の人から相談を受けたとき、アドバイスとともに本を薦めることがあります。自分自身の言葉だけで『こう思う』と言っても、相手に響かなかったり、まっすぐに伝わらなかったりすることも。そんなときに本を1冊添えることで、説得力が増します。知識のシェアをすることも多いですね」
読書にも「トレーニング」が必要
ハヤカワさんの読書量が増えた背景には、もう1つ理由があります。それは「自分の読み方」を確立したこと。本によってスピードは違うものの、速いときは30分~1時間、大体は2~3日で読み切ってしまう「短期集中型」の読書スタイルです。
「何日間も掛けて読んでいると、最初に書いてあったことを忘れてしまうことがあります。それで今は『重要な部分』と『つなぎの部分』を区別して、大事な部分だけ読むようになりました。読みながら気になるポイント、いずれ引用できそうなデータにはどんどん線を引く。無印良品のノック式蛍光ペンを愛用していますが、すぐに使い切ってしまうので何本か持ち歩いています」
自分に合った読書法を身に付け、読書量が増えたことで気付いたのは、「読書は筋トレと似ている」ということ。
「本は、1冊読んだだけですぐに役に立つような『特効薬』ではない。筋トレをこなすように、ある程度の冊数を読んで知識や考え方の引き出しを増やす必要があると思います。そうするうちに、公式を使って応用問題を解くように、自分で考える力が身に付くと思うんです。例えば『性差別は人種差別と構造が通じているのでは。じゃあ、関係のある本をもっと読もう』というように。情報を統合できる力を養うのが大事だと思います」
タダで得られる情報がコスパがいいとは限らない
「読書量が必要」と聞くと、「忙しいから無理」「大変そう」と気が引けてしまう読者もいるかもしれません。でも、ハヤカワさんは「きちんと1冊読み切らなくてもいい。書いてあることが1割しか分からなくても、読んだ意味はあると思います」と語ります。
「私はジェンダー論や経営に関する本を読むことが多いのですが、宇宙や物理に関する本も好き。難しくて理解できない部分もあるけれど、単純に面白い。それに、自分の仕事や普段フォローしている分野とは直接関係しない『知識の引き出し』が増えます。そこから話が弾んで、結果的に人とのつながりが広がったり、深まったりすることもあるんですよ」
「ちゃんと読まなきゃ」「元を取らなきゃ」と肩に力を入れ過ぎず、もっとラフに読書を楽しめるといいのかもしれません。
「1000円の本を毎月50冊読んだら5万円掛かりますが、それで知識も人とのつながりも増えるのなら、コスパはすごくいいと思うんですよ。ネットなどタダで得られる知識が『お得』とは限らない。『情報にお金を払う』ことの意味を考えてみるといいかもしれません」
お薦めの1冊は『採用基準』
ハヤカワさんがお薦めしてくれた1冊は『採用基準』(伊賀泰代著/ダイヤモンド社)。著者は米マッキンゼー・アンド・カンパニーの日本支社で採用マネジャーを12年間務めた女性です。タイトルだけ見るとマッキンゼーに入社するためのノウハウ本のようにも見えますが……。
「実はキャリアについて考えさせられる1冊なんです。『日本では何でもそつなくこなせる優等生型人材が良しとされるが、世界では特定の分野で突出したレベルにあるスパイク型人材が評価される』『リーダーシップは誰でも学べ、日常的に使えるスキルである』といった重要なポイントが書かれています。本にはタイトルから想像できる内容と、実際の内容が異なるものもあるんです。食わず嫌いをせずに手に取って、意外な出合いも楽しむことができたらいいですよね」
自らを「キュ~トでクレバ~な経営者」でありたいというハヤカワさん。まさにその言葉を体現しているような読書術が印象的でした。
ハヤカワ五味さんの読書術
●「重要な部分」「つなぎの部分」を区別する意識を持つことで、読書スピードがアップ
●「きちんと読み切ろう」と気負わない。冊数を読んで知識や考え方の引き出しを増やす
●タイトルの印象と実際の内容は、必ずしも一致しない。意外な出合いも楽しむ
ウツワ 代表取締役。胸が小さい人向けのランジェリーブランド「feast」「feastsecret」など、課題解決型アパレルブランドを展開する株式会社ウツワを2015年(当時18歳)で設立。起業家として活躍しながら、インフルエンサーとしてTwitter、YouTube、noteなどでも発信している。生理用品のセレクトショップ「illuminate」プロジェクトの代表も務める。
(取材・文 三浦香代子、写真 吉澤咲子、構成 加藤藍子=日経doors編集部)
[日経doors 2019年6月24日付の掲載記事を基に再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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