東大生家族も悩む子供部屋おじさん あなたは大丈夫?
東京大学や早稲田大学、慶応義塾大学など、いわゆる首都圏の上位校と言われる大学の学生の出身地をご存じだろうか。東大早慶の場合、今や約7割が1都3県の首都圏から。必然的に自宅生の割合は高まっている。
では、大学を卒業したら自宅を出ていくのかと言えば、そうでもない。例えば、全国転勤のある大企業ではなく、コンサルタントやベンチャー企業を志望する理由の一つとして大学生が挙げる理由が「東京から離れたくない」というものだ。そもそも「就職後も親と一緒に暮らす方が楽」という学生も少なくない。
果たして、これでいいのだろうか。ある東大生と家族の葛藤を紹介する。
「独立しようか迷っている」。東大大学院生の山田次郎さん(仮名、24)はコンサルティング会社への就職が内定した。内定先の会社は東京都中央区で、自宅は杉並区。通勤には便利だし、何時に帰宅しても母親は夕食を準備しているし、スマートフォンなど生活費は父親に負担してもらっている。「本音で言えば、結婚するまでは独立したくない」
山田さんには2歳年上の兄がおり、早稲田大学卒業後に海外留学して就職したものの、「早く自宅を出たいが、安月給だから」とこちらも実家に居座り続けている。確かに自宅の近くでワンルームマンションを借りる場合でも家賃を含めた生活費は月給の手取りの7割を占める。
父親は「親から独立しなければ、精神的にも経済的にも大人になれない。結局、結婚もしないだろう」と荒療治を考えた。自宅の売却を検討。売却後に2LDKの小さなマンションに引っ越すもくろみという。
父親は早速、不動産会社と交渉したが、希望の価格で売却し、手ごろなマンションを購入するのはなかなか難しいようだ。それでも両親が独立をせかすのは周囲に「子供部屋おじさん」が増殖しているためだ。
子供部屋おじさんは最近、インターネットで話題になっている言葉だ。大人になっても実家の子供部屋に住み続けている中高年男性のことを指す。
都内に暮らす父親の知人の長男は明治大学の学生時代から30歳を過ぎた今もアルバイト暮らしだ。自宅の子供部屋に居座り、結婚する意志はない。また、母親の友人の近所の資産家の長男も自宅で暮らすフリーターだ。立教大学時代から音楽バンドにはまり、40歳近くになるが独身でバイト暮らし。いずれの親も子煩悩で、独立を迫ろうともしていない。互いに「親離れ」「子離れ」できない状態が続いている。
24歳の山田さんは「自分と彼ら『子供部屋おじさん』とを一緒にしてほしくはないが、両親は同じように見てしまうのだろう」と話す。ただ、独立心が旺盛かと問われればそうはいえない。ロボット工学を専攻しながら、メーカーや商社を選択せず、コンサルに決めたのは東京から離れたくなかったという理由が大きい。
母親も何の見返りを求めず、毎日夕食を準備し、洗濯をしてくれたり、部屋を掃除してくれたりする。唯一口うるさいのは父親だが、互いに忙しいため、ほとんど接することはない。「正直言って親と暮らすほうが都合がいい。下手をすると、一生結婚せず、親と一緒に過ごすかもしれない」という。
2015年の国勢調査によると、「50歳時点で結婚の経験が一度もない」という日本人の男性は実に4人に1人(女性は7人に1人)。1990年時点では男性は18人に1人(女性は23人に1人)だったので、この四半世紀で結婚しない男女が急増しているわけだ。非婚の理由は価値観の多様化など様々だが、「そもそも親から精神的、経済的に独立していない人間が結婚など成り立たない」というのが山田さんの父親の持論だ。
「父の意見が絶対とは思わないが、参考にはなる。父は地方の出身で、自然と独立を迫られたそうです。東京の大学に進学する際に親から精神的に独立し、就職したときに経済的に独立しなければいけなかった。だから仕事をし続け、家庭を持った」という。
一昔前までのある時期、日本の家庭は三世代同居の大家族が当たり前という価値観だった。特に農家などでは家族は寄り添い、支えあわなければ、生活が成り立たない。必要性がある以上、親と同居するのはむしろ奨励されることだった。
現代は、そうした価値観が薄れる一方で親と子の依存関係は深まるという、とらえがたい時代だ。「さすがに『子供部屋おじさん』とは呼ばれたくない。それは一種の恐怖だ」と言う山田さんの独立を阻んでいるものの正体は、いったい何なのだろうか。
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