■精神性をたたえた「紺に染まる」身なり

昔から人びとは深い海や空の色に憧れました。さらに強く希求したのが「変わることなきブルー」だったのです。いにしえより青い染色は、その色が褪(あ)せることがありませんでした。それを心変わりのない、自らに忠実な精神の証しであると信じたのです。

日本の紺も、西洋のブルーも、蓼(たで)科の植物、藍で染められたものです。藍で染めると美しい紺に仕上がり、長い間、褪せることがないのは不思議です。

「青は藍より出でて、藍より青し」という言葉があります。地中に埋めた甕(かめ)に入った藍は、まあ泥かと思う色をしていますが、ひとたびそこに糸を漬け、引き上げますと、鮮やかな青に変る。引き上げることを「スカイイング」と言い、藍が酸化することによって見事なブルーとなります。

1987年、仏歌手の葬儀に訪れた際の様子=AP

日本で藍染めは、はるか遠く奈良時代から行われてきました。日本の気候風土に合った藍染めは美しさが際立ち、戦前までのヨーロッパでは「ジャパン・ブルー」の言葉があったほど。ヨーロッパの人も魅了したのです。

「古来、藍小舎には愛染明王をまつり、祈りながら染めたということです。それ故、この藍の色には深い精神性がたたえられ、歴史や風俗に浸透した色として風格を備えています。」(志村ふくみ著「一色一生」)

俗に「色に染まる」といいますが、こうした精神性をたたえた「紺に染まる」身なりとは、実直な、不変の心意気を伝えるものにほかなりません。

「紺に入って、紺に終わる」。これはダンディズムの名言の一つです。社会人になりたてのころ、まずはじめに紺のスーツを一着作ります。それを手始めに紆余(うよ)曲折を経ながらファッションの冒険をしていきます。そして40、50代になってふと気づくと、再び紺にかえっているものです。この言葉は、男のスーツ遍歴の理想を教えているわけです。

出石尚三
服飾評論家。1944年高松市生まれ。19歳の時に業界紙編集長と出会ったことをきっかけに服飾評論家の元で働き、ファッション記事を書き始める。23歳で独立。著書に「完本ブルー・ジーンズ」(新潮社)「ロレックスの秘密」(講談社)「男はなぜネクタイを結ぶのか」(新潮社)「フィリップ・マーロウのダンディズム」(集英社)などがある。

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