強みの団結力、勝つことでより強く ラグビー金星的中
プロ野球選手・青木宣親さん
日本の大金星を予期していた。強豪アイルランドとの試合前日となる9月27日のインタビュー。日本の勝利について「大いにあり得ますよ」。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の日本連覇に貢献し、プロ野球通算打率歴代1位の座にある青木さんが思う「勝つチーム」の条件は、「One Team」を掲げるラグビー日本代表の姿にも重なる。
――日本は世界ランク2位(当時)のアイルランドとの対戦を控えています。勝敗をどうみていますか。
「下馬評は雲泥の差でアイルランドが高いでしょ。だけど前回W杯で日本は強豪の南アフリカに勝ちましたよね。自国開催の今回はホームのアドバンテージもある。勝つこと、大いにあり得ますよ。もし勝つことができたら、絶対にその理由があるはずだし、それは間違いなく日本のラグビーがいい方向に進んでいるという証しになる」
――野球の日本代表として世界一を経験しています。「最後に勝つチーム」の条件はありますか。
「WBCで優勝したときに自分が一番感じたのは団結力。もちろんプロ集団ですから、だれにも助けてもらえない局面が続くんですけど、だからといって一人だけでは試合をどうすることもできない」
「世界でプレーするうちにすごく思ったことなんですけど、日本人の強みって、チームワークじゃないかと。すごく強く団結して世界に対抗する。そこに個人の能力が加わると、さらに強くなると思います」
――団結するために必要なものはありますか。
「やっぱり勝たないと団結できない。結果が伴わないと、みんな自信を持つことができない。なんとか結果を出すことで、チームとして正しい方向に進んでいると思える。WBCのような短期決戦は、なおさらです。勝っていくことで、やってきたことが正しかったことがわかってくる」
――ご自身とラグビーとの接点は。
「兄がラグビーをしていたのを見て面白そうだと思い、野球のシーズンが終わっていた小学6年の最後の3カ月間、自分もプレーしました。家にもラグビーボールは置いてありましたし、庭で投げて遊んでいました。野球のボールとは形が違い、跳ね方も違う。すごく楽しかったですね」
「高校に入ったときも、野球と違ったスポーツをやってみたいと思い、ラグビー部に入ろうかと考えたくらいです。結果的には友人に誘われて野球部を選んだわけですが、体育の授業ではラグビーをやりました」
――ラグビーのどんなところが魅力でしょうか。
「なんか『やってる感』がありますよね。みんなが同時に休まず動いているというか。野球だと攻撃のときにベンチで休んでいる時間もある。個人的には個人競技より団体スポーツが好きで、そこは野球も同じです。連係プレーやサインプレーがあったり、小さな体格の選手が活躍できるのも似ているかもしれません」
「ガーンと相手にぶつかっていくのも、なんか男っぽいというか、魅力を感じました。ファン目線で言えば、倒れそうなところを倒れず、粘りながらパスするようなプレーが好きです。タックルを受けながら、それでも前に進もうとする姿にはすごく力強いものを感じる。自分がそういう人間でありたいというのもあるかもしれないですけど」
――国内ではW杯後にラグビーのプロ化を進める構想があります。日米でプロスポーツに携わってきた選手の視点で、どんなプラスがあると思われますか。
「プロ化は賛成ですね。やっぱりプロリーグの方が魅力があると思いますし、プロがあることで、子どもたちも目を向けてくれる。選手もプロの扱いを受ければ、人間としてもプロっぽくなってくる。やっぱり自分が身を置く環境は大切で、選手の自信にもつながると思います」
――プロとしてご自身が一番大切にしていることは何でしょうか。
「自分にとって一番ということであれば、あきらめないこと。単純なことですけど、一番難しい。自分もあきらめそうになったことは何度もあって、それでも壁を乗り越えて今がある。プロはその積み重ねだと思うんですよね。そして、そのために野球のことをどれだけ考えているか。いろんなことにアンテナを張ることは必要なんですが、野球選手という職業ですから、やっぱり野球のことを毎日考えることが大切だと僕は思うんです」
――プレッシャーをはねのける方法は。
「米国に行ってからですが、メンタルトレーニングをするようになりました。大リーグの球団にはメンタルトレーナーがいるので、その人に教わるんです。自分が求めていたのは、ここぞというときの『最大集中』。世界の舞台で、外国の選手は土壇場に強いというのをものすごく感じていましたから」
「僕の場合、例えば次の打者として待っているとき、その球場の電光掲示板や看板にあるスポンサーの文字をじーっと見つめる。そうすると自分は集中できるというクセをトレーニングによってつけるんです。これは、どれだけ無心に見ることができたかが大切。いますごく役立っていますね」
――ラグビー日本代表でとくに好きな選手はいますか。
「印象深いのは(主将の)リーチ・マイケルさん。高校時代を札幌で送り、すごく日本を好きになってくれたのもうれしい。(都心の)丸の内に像があるでしょ。あんなオフィスビル街に置かれているなんて……。僕の像も隣につくってほしい」
――ラグビーW杯をより楽しむポイントは。
「オールブラックス(ニュージーランド代表)の『ハカ』のような試合前の踊り、他の国(フィジー、サモア、トンガ)もやっていますよね。自分たちを鼓舞して『やってやるぞ』という思いが伝わってくる。エンターテインメントの視点から見ても、すごく楽しい。日本も何かやってほしいなと思いますね」
1982年(昭和57年)1月、宮崎県生まれ。県立日向高、早大を経て、ドラフト4巡目で2004年にヤクルト入団。外野手、右投左打。首位打者3回、シーズン200本安打2回。日本プロ野球での通算打率(3割2分6厘、9月29日時点)は歴代トップ。大リーグで12年から6シーズンを過ごし、17年には日米通算2000本安打を達成。18年にヤクルト復帰。WBCには日本代表として3度出場。日本が連覇を達成した09年の第2回大会ではベストナインにも選ばれた。ヤクルトでの背番号は23。
(聞き手 天野豊文 撮影 藤沢卓也)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。