社長も部長もない 「対等な議論こそ力」TDK 石黒成直社長(上)

――社長を引き継いだときはどのような気持ちでしたか。

「自分が社長になるとは夢にも思っていませんでした。当時の上釜健宏社長に『社長になってくれ』と言われたときは驚き、当初は『どうやったら断れるだろうか』とばかり考えました。実際に断ったのですが、上釜社長からは『前向きに考えてくれないか』と返ってくるだけでした」

「社長になるべきか辞退すべきか、誰かに相談できるものでもなく、何日も思い悩みました。この気持ちは社長になった人にしか分からないでしょう」

会議では「機能対等」の言葉通り、役職に関係なく皆が対等に話し合う

――社長就任に際して特に悩んだことは何ですか。

「当時、私はHDD用磁気ヘッド事業を統括していました。また将来を見据えて、HDDヘッドの技術を応用した磁気センサー『TMRセンサー』を開発したばかり。これから事業を成長させていくタイミングで『これが最後のご奉公だ』と思っていたころのことです。ここで事業を放り出すのは無責任ではないかと悩みました」

「当時からセンサー事業を次の主力事業に育てようと、全社一丸となって取り組んでいました。あらゆるモノがネットにつながる『IoT』やスマホ、自動車といった市場でセンサーや関連したサービスの需要が拡大するはずです。私も海外のセンサー企業の買収を自ら提案していたので社長就任は厳しい選択でした。今でも社長としてセンサー事業を軌道にのせるべく注力しています」

支えてくれる人がいる

――考えが変わるきっかけは何だったのですか。

「しばらくして、後ろ向きになっている自分に気づきました。何かと理由をつけて断る口実を考えていましたが、よほど深刻な顔をしていたからでしょうか。周囲に気遣ってくれる人が出てきました。そのとき『もし私が社長になっても支えてくれる人がいる』と前向きに考えられるようになりました」

「昔から将来、経営を担うことになる人たちの下で働いていたこともあり『こうすればTDKをよくできるかもしれない』とアイデアが出てくるようになり、社長になる覚悟を決めました」

――いま社長になって感じていることは。

「感覚的には細いロープの上を自転車で走っているようなもので、立ち止まるわけにはいかず、常に前に進んでいかなければならない。そうでなければ10万人の従業員を抱える会社の社長は務まらないでしょう。常に挑戦し続けることが求められる立場です」

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