「バイ・マイ・アベノミクス(私の経済政策は『買い』だ)」――。安倍晋三首相が国連総会出席の折、米ニューヨーク証券取引所で高らかに宣言したのは2013年9月のこと。あれから丸6年。日経平均株価の水準こそ当時に比べ約5割高を維持しているが、最近の日本株市場は明らかに売買が減って盛り上がりに欠ける。さらに、あるマーケットデータの時系列の推移を追うと、重要な潮目の変化が浮かび上がってくる。
注目するのは海外投資家による日本株の累積の売買代金だ。日本株の「買い」と「売り」を相殺したネットの「買い越し」「売り越し」の動向を見てみると、アベノミクス相場下で一貫して買い越しだった海外勢の投資スタンスが最近売り越しに転じたことがわかる。
日本取引所グループは毎週、海外勢のほか個人や金融機関などに分かれた投資家別の売買代金を公表している。
アベノミクス相場の起点を12年11月第3週とし、週間データを積み上げると海外勢の日本株の買越額は15年5月に24兆円超まで膨らんだ。それが19年8月第2週に初めて「売り超」となり、8月末では約800億円の売り越しだった。
足元では世界的な金融緩和の下、再び買い越しになったとみられるが基調の変化は否めない。
海外投資家は売買代金ベースで約7割を占める日本株のメーンプレーヤーだ。先物市場では約8割まで存在感が高まり、ヘッジファンドやコンピューターを駆使した超高速取引(HFT)など相場の動きを増幅する点でも影響力のある投資家が多い。アベノミクス初期には海外勢がけん引し一気に円安・株高が進んだが、もともと人口減少下の低成長に悩む日本への視線は厳しい。
米系運用会社インベスコ・アセット・マネジメントの佐藤秀樹社長によると「日本株の調査や運用などに人を割こうという動きが減退している」といい、実際9月には英系運用会社ドルトン・グループが日本拠点を閉じた。「欧州投資家による日本株運用の意欲減退」が理由という。さらに10月には消費増税を控え「海外勢の間では個人消費失速の可能性が意識されている」(JPモルガン・アセット・マネジメントの重見吉徳グローバル・マーケット・ストラテジスト)。
海外勢のアベノミクスへの評価が剥落する一方、代わってメーンプレーヤーとしての存在感が増しているのが日銀だ。
日銀が主に相場下落時に買い入れる日本株の上場投資信託(ETF)の累計購入額は26兆円規模に膨らんだ。ピーク時の外国人買い24兆円が丸ごと置き換わった構図だ。
いつか日銀が「売り越し」に転じる時、誰が代わって日本株の買い手となるか――。アベノミクスの帰結はまだみえない。
(川上純平)