札幌の行列スープカレー ファンが資金、渋谷に進出
かつて一大ブームとなった北海道名物「スープカレー」の人気が再燃しつつある。札幌で専門店がインバウンド(訪日外国人)から高評価を得ていることがきっかけだ。そんな中、札幌の人気店「Suage(すあげ)」が東京進出を果たした。2019年5月にオープンした「Hokkaido Soup Curry Suage」渋谷店は、再開発が進む渋谷駅の東口、ヒカリエのすぐ近くのビル地下1階だが、大きな赤いロゴが目印となり、店の場所も分かりやすく、渋谷駅徒歩1分のアクセスの良さもうれしい。
「Hokkaido Soup Curry Suage」は、札幌で07年に創業したスープカレーの人気店だ。渋谷店のほかには、札幌市内に4店舗、ほかにもシンガポール、タイなど海外に店舗がある。本店は毎日開店前から行列ができるほどの人気店で、閉店まで行列が続くことも多い。地元の人々から熱い支持を受けるだけではなく、外国人観光客からの人気も高い。その証拠に、旅行口コミサイト「trip advisor」では、総合評価で5段階中4以上を継続的に獲得しているお店に送られる「エクセレンス認証」を15年から獲得し続けている。
スープカレーは70年代に札幌の喫茶店で考案されたスープ状の薬膳カレーに影響され、札幌で広まった料理である。鶏、豚、野菜などからだしをとったスープにスパイスをあわせて作られることが多く、さらっとしたスープに具材がごろごろ入っているのが特徴だ。「スープカレー」の名称を使い始めたのは、90年代はじめに札幌で創業した「マジックスパイス」という店だった。その後、札幌にはスープカレー専門店が増え、ラーメン、ジンギスカンと並ぶソウルフードとして愛されるほどに定着している。
03年には横浜市の「横浜カレーミュージアム」に「マジックスパイス」が出店したことで首都圏でもスープカレー人気に火が付き、05年ごろには都内にスープカレー専門店が乱立。コンビニでも販売されるほどのブームの到来となった。札幌では今も約300ものスープカレー店がしのぎを削る。
ブームは一服した感があるが、近年は人気が再燃しつつある。一つには「trip advisor」上で外国人観光客によってスープカレー専門店が高評価を獲得していること。もう一つには、薬膳スープをベースにさまざまなスパイスを配合するスープカレーに、健康・美容効果を期待する声が高まったことがある。
こうしたスープカレー再燃の波に乗るのが、インバウンドからも評価される「Suage」のスープカレーなのだ。特徴は、店名の通り「素揚げ」された具が串に刺さった状態で盛り付けられていること。野菜たっぷりで体にも優しく、見た目もカラフルで楽しい。スープカレーは色々な具が入っていても、煮込まれてしまうと何が入っているのか分からない。しかし、素揚げにすれば、何が入っているのか一目瞭然。さらに串を持つことで食べやすくもなる。見た目の良さと食べやすさへの工夫も人気の秘密だ。
札幌にある4店のうち直営店である3店は、店によってスープを選べるのも特徴だ。本店「Hokkaido Soup Curry Suage+(すあげプラス)」(本店)では鶏ガラとトマトをベースに何種類ものスパイスを加えてじっくり仕上げた定番スープか、「イカスミスープ」が選べる。2号店の「Hokkaido Soup Curry Suage2」では定番スープか、エビエキスをプラスした「すあげスープ2」のどちらかを。3号店の「Hokkaido Soup Curry Suage 3(すあげ3号店)」では定番スープまたはココナッツスープのどちらかを選ぶ。
店ごとに違う味わいが楽しめる仕掛けだ。注文の仕方はベースのカレー、スープの種類、辛さ、ライスの量、約30種類の具材の中からトッピングを選ぶという方法なので、自分好みのスープカレーを作り上げることができるのも楽しい。
食材は北海道産にこだわる。ライスは北海道産の「ななつぼし」に赤米を混ぜたもの。メイン具材にも「知床鶏」「ラベンダーポーク」「生ラム」「道産せせり」といった北海道ならではの食材がずらり。
そして今回、東京進出した渋谷店でも本店一番の人気メニュー「パリパリ知床鶏と野菜カレー 」(1380円・税込み)をはじめ、「ラベンダーポークの炙(あぶ)り角煮カレー 」(1380円・税込み)、「生ラム炭焼きカレー」(1330円・税込み)など札幌の本店と同じメニューが食べられる。
スープは創業当時から老若男女に愛される定番スープ、または本店と同じくイカスミベースのどちらかが選べるようになっている。食材は北海道から取り寄せた道産食材にこだわる。味はもちろん本店と同じおいしさ。
味に加えて、店内にはスタッフの熱い"スープカレー愛"が感じられる。それはなぜか? 秘密は渋谷店を経営する会社にあった。実はこの渋谷店を経営するSuage Japanは、札幌の「Suage」の経営会社とは関係がないものの、「Suage」のスープカレーにほれ込み、ぜひ東京で広めたいとして新たに設立された会社なのだ。
母体となるのは、会計事務所を軸に、経営者の健康のためにパーソナルジムの展開、管理栄養士による栄養指導まで幅広く手掛ける企業だ。代表の服部峻介さんをはじめ、社員に北海道出身者が多いこともある。
「実は東京には北海道の飲食店は少ないんです。スープカレーはとてもおいしいし、北海道が誇るべき食べ物だと思います。でも東京のスープカレー店は都内の西側に集中していて、都心であまり食べられません。東京でも『Suage』を食べたい。ならば自分たちで東京に『Suage』を作ってしまおうということになりました」(Suage Japan運営本部マネージャー の竹下遼さん)
「Suage」の事業会社とはコネやツテもなかったが、大胆にもホームページに掲載されていた札幌本部のアドレスへメールしたそうだ。「Suage」のファンでもあることと、北海道外への出店を任せていただきたいと率直に訴えたという。すると、「これまでたくさんの出店オファーがあった中で一番興味をもっていただいたようで、『出店に向けての話し合いをしましょう』といううれしい返事をいただきました」と竹下さんは振り返る。
そこからは、東京を拠点とし多角的経営をしてきた社内でのチームプレーが生きた。開店準備を整えた後に、クラウドファンディングプラットフォームのCAMPFIREを利用。社内にあるデザインチームがロゴをデザインし、どんな言葉で訴えたら、多くの人の興味をひくのか、リターンはどんなものが良いか、試行錯誤を繰り返した。
「『Suage』のスープカレーを日本中で食べられるようにしようぜ!」というストレートなメッセージが受け入れられたのだろう。プロジェクトは311人のパトロンを得て、目標の2倍近い額である195万4000円を集めた。
「クラウドファンディングは資金を集めるためというよりは、お店のことを知ってもらうために利用する感覚でした。東京でどのくらいの人が『Suage』のスープカレーを食べたいと思ってくれるかということも知りたかった。クラウドファンディングを始めたのはオープンの1カ月前でしたが、結果は私たちの予想をはるかに上回りました。クラウドファンディングを通じて多くの方に知ってもらえたのだと思います」(竹下さん)
北海道のスープカレーを東京で食べたいというシンプルな思いと、実現させるための様々な取り組みがうまく実を結んだうえでの東京進出の実現だった。オープンから4カ月。渋谷店でもすでにランチ時にはたびたび地上まで行列ができるほどの人気ぶりだ。
10月1日には東京2号店の丸の内店もオープンした。道産子とインバウンドを魅了した北海道産食材たっぷりの、ヘルシーやみつきスープカレーを、渋谷・丸の内でもぜひお試しあれ。
(日本の旅ライター 吉野りり花)
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