働き方・学び方

ハーバードで学ぶ日本

日本企業のイノベーションのカギは ハーバード大教授 ハーバードビジネススクール教授 ゲイリー・ピサノ氏(下)

2019/10/4

ハーバードビジネススクール (c)Susan Young for Harvard Business School

世界トップクラスの経営大学院、ハーバードビジネススクール。その教材には、日本企業や日本の事例が数多く登場する。日本企業のどこが注目されているのか。作家・コンサルタントの佐藤智恵氏によるハーバードビジネススクール教授陣へのインタビューをシリーズで掲載する。今回はホンダジェットの開発物語を教材にしたゲイリー・ピサノ教授の3回目。視野を広げて製造業の未来を展望する。

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佐藤 ピサノ教授が2009年にハーバードビジネスレビュー誌に寄稿した論文「競争力の処方箋」は、オバマ前大統領の産業政策にも影響を与えたと言われています。現在、アメリカのトランプ政権は「製造業の復権」を訴えていますが、それはピサノ教授が10年以上も前に論文や著書で指摘していたことですね。

ピサノ ワシントン・ポスト紙によれば「競争力の処方箋」は、オバマ大統領(当時)が愛読している3つの論文のうちの1つだったそうです。12年の大統領選で共和党のミット・ロムニー候補とテレビ討論を行った際にも、オバマ前大統領は私の論文を引用しながら、製造業重視の方針を打ち出していました。テレビを見ながら興奮したのを覚えています。

この論文をもとに執筆した本が「繁栄と製造業:なぜアメリカは製造業ルネサンスを必要としているのか(Producing Prosperity: Why America Needs a Manufacturing Renaissance)」(未邦訳)です。この本はオバマ政権の時代にとても人気を集めました。

■オバマ氏もトランプ大統領も「製造業復権」を重視

ハーバードビジネススクール教授 ゲイリー・ピサノ氏 (c)Evgenia Eliseeva for Harvard Business School

皮肉なことに、トランプ大統領の製造業に対する考え方は、オバマ前大統領とそれほど違っていません。両者とも「製造業の復権が重要である」と考えていることは共通しているのです。ところが、どのように製造業を育成していくか、についてのアプローチは全く異なっています。

オバマ前大統領は「アメリカ人のスキルや技術力を向上させるための投資を行うことによって生産能力を取り戻していくべきだ」と訴えていましたが、トランプ大統領は、「アメリカは輸入制限や関税率の引き上げで特定の産業を保護し、国内の雇用を増やすべきだ」と主張しています。私自身は、やみくもに国内に工場をつくり、雇用者数を増やすことが、アメリカの製造業の復権につながるとは思っていません。

佐藤 なぜアメリカの大統領は製造業を重視するのですか。

ピサノ 著書にも書きましたが、その理由は政治家によって異なります。とても重要なのは、かつて製造業は「たくさん人を雇ってくれる業界」だったということです。中間層の票を獲得する上で、「あなたの住んでいる地域に工場を建設し、たくさん人を雇います」というのは非常に効果的なメッセージです。

しかし私は、「製造業=雇用の源泉」という考え方は、もはや時代遅れだと思います。製造業の雇用者数は、トランプ政権になって少し増えたとはいっても、アメリカ全体の雇用者数の7~9%しか占めていません。トランプ大統領は票を獲得するために「かなうことのない夢」を売っている、という印象です。

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