佐藤 なぜアメリカの自動車メーカーは、航空機事業に乗り出さなかったのですか。

ピサノ コア事業が安定的な収益をあげないかぎり、事業の多角化はできません。ご存じのとおり、アメリカの自動車メーカーの業績は、過去数十年にわたって伸び悩んでいます。もしゼネラルモーターズやフォードが航空機事業に乗り出す、と発表したら、投資家が黙ってはいないでしょう。「ちょっと待ってくださいよ。本業を最初に立て直すのが先でしょう」と。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。日本ユニシス社外取締役。

佐藤 ボーイングが超小型機マーケットを狙わないのはなぜですか。

ピサノ ボーイングは大型航空機の専門メーカーです。リージョナルジェット(小型ジェット旅客機)さえ製造していません。ボーイングだけではなく他の大手航空機メーカーも、超小型機のマーケットにはそれほど興味を持っていません。なぜなら既存の航空機メーカーは「超小型機なんて需要はそんなにないだろうし、一機あたりの価格も安いから効率よくもうけられない」と考えているからです。

航空機を開発するための固定費は、大型機も超小型機も同じです。ですからできるだけ大きい飛行機をつくって、高く売りたい。1機500万ドルよりも、1機2000万ドルの航空機を売ったほうがコストパフォーマンスがいい。だから既存のメーカーは超小型機の市場に参入していないのです。

プライベートジェット業界のシビック狙う

佐藤 にもかかわらず、ホンダは最初から超小型機市場を狙いました。その理由は何だと思いますか。

ピサノ ホンダの目的は「プライベートジェット業界のシビック」を開発することでした。先ほども申し上げたとおり、「もっと多くの人々にプライベートジェットに乗ってもらいたい」というところから、開発が始まっています。

超小型機を購入したい顧客はいるのに、製品がない。ではつくればよい、という発想です。他の既存の航空機メーカーとは違って、「顧客がのぞむ製品さえあれば、見えない需要を掘り起こせる」と考えたのです。その背景には、米国市場におけるホンダシビックの成功体験がありました。

60~70年代、米国の自動車メーカーの小型車はとても音がうるさくて、車内も狭くて、デザインも安っぽいことから、全然人気がありませんでした。そこにホンダシビックが登場すると、瞬く間に評判になりました。見た目もスタイリッシュで、車内も広く、音も静か。「運転するのが楽しくなる車」として大ヒットしたのです。ホンダシビックは他の日本企業の小型車とともに、アメリカの小型車市場を切り開きました、

ホンダシビックもホンダジェットも「ニッチマーケット(隙間市場)」からのスタートです。問題は「このニッチマーケットを成長させられる確信があるか」です。ホンダは小型車で成功をおさめ、その後、他の車種へと製品ラインアップを広げていきました。ホンダジェットも同じような成功をおさめられるかはなお未知数ですが、シビックの成功モデルを踏襲していることは間違いないでしょう。

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