なぜホンダは航空機で成功できた ハーバード大の視点ハーバードビジネススクール教授 ゲイリー・ピサノ氏(上)

「航空機の生産においては、経験曲線があります。1年目から大量生産をしようとすると、最初に多くの人を雇用しなくてはなりません。でも、2年目、3年目には、知識や経験が蓄積されて、1年目よりも少ない人数で生産することができるようになります。すると、そこに余剰人員が出てしまいます。経済合理性から考えれば、『余剰人員は解雇すればいい』という判断になりますが、それはホンダの哲学に反します。ホンダは、人の力を信じているため、簡単に人員を解雇したりしません。そのため、ホンダジェットについても、最初から大量生産はせず、小さく始めて知識や経験を蓄積させて、少しずつ人を増やしていく方法をとったのです」

これを聞いた学生は「ホンダは藤野社長のような人材を得て幸運だ」と感心していましたが、私も、チームで働いている社員をとても大切にしているリーダーだと思いました。私がホンダエアクラフトカンパニーを取材で訪れたとき、多くのアメリカ人の社員が藤野氏のことを尊敬していたのが印象的でした。

佐藤 藤野氏はなぜ「翼の上にエンジンを置く」というような画期的なアイデアを思いついたのでしょうか。

ピサノ 「これは偶然の産物だ」「たまたまうまくいってラッキーだった」という見方をする人もいますが、私はそうは思いません。藤野氏には、すべての優れたイノベーターに共通する哲学がありました。それは、一見、非合理的に見えるアイデアや誰もがありえないと思うようなアイデアに対して、「本当にそうなのか」と疑ってみるところから始めることです。

「クレイジー」だと思われても、試してみる

藤野氏は「大学の航空工学の授業で、基礎知識として最初に習うのは『エンジンは翼の上には置けません』ということです」とおっしゃっていましたし、航空業界でそれは実現不可能だというのが常識でした。「翼の上にエンジンを置く」なんて航空エンジニアからみたら、クレイジーなアイデアだったのです。しかし藤野氏は理論的には可能であることに気づき、何度も試行錯誤を重ね、それが可能であることを証明してみせました。

彼は絶対的な常識に果敢にチャレンジしました。ときには「クレイジー」だと思われても、試してみる。それが偉大なイノベーターに共通する特性なのです。

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ゲイリー・ピサノ Gary P. Pisano
ハーバードビジネススクール教授。専門は経営管理。主にテクノロジー戦略、オペレーション戦略、イノベーション・マネジメント、競争戦略を専門に研究。同校のMBAプログラムにて「成長企業のマネジメント」、エグゼクティブプログラムにて「収益性の高い成長の推進」を教えている。2009年にハーバード・ビジネス・レビュー誌に発表した論文「競争力の処方箋」は、マッキンゼー賞を受賞した。近著に「Creative Construction: The DNA of Sustained Innovation」(2019, Public Affairs)。

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