なぜホンダは航空機で成功できた ハーバード大の視点ハーバードビジネススクール教授 ゲイリー・ピサノ氏(上)

佐藤 なぜホンダはそのような難しいことを実現できたのですか。

ピサノ まさにそれを授業で議論するのです。実は2019年3月、ホンダエアクラフトカンパニーの藤野道格(ふじの・みちまさ)社長に経営学修士(MBA)プログラムの授業に来ていただいたんですよ。藤野氏はホンダエアクラフトカンパニーのあるノースカロライナ州グリーンズボロからボストンまで「ホンダジェット」で飛んできてくれました。おかげで議論が盛り上がり、ホンダジェットの授業はとても評判がよかったのです。

イノベーションには長期的視点が必要

授業で藤野氏は、航空機ビジネスという事業機会をどのようにとらえていたか、どのような課題に挑戦したか、などについて率直に語ってくれました。とても印象的だったのは、「イノベーションをおこすためには、長期的な視点で考えることが必要だ」と強調していたことです。

藤野氏は学生に向かって、こう質問しました。「皆さんの中でプライベートジェットに乗ったことのある人はいますか」。すると、手を上げたのは数人しかいませんでした。そこで彼はこう言いました。「20年後、再びハーバードビジネススクールで同じ質問をしたら、おそらく90%の人が手をあげるでしょう」と。

つまり藤野氏が見ているのは20年後の世界。彼が目指しているのは、プライベートジェットをもっと身近な移動手段にすることです。超富裕層や大企業でなくともプライベートジェットを利用してもらえるように、裾野を広げることです。それにはある程度の時間が必要であることも承知の上です。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。日本ユニシス社外取締役。

佐藤 この長期的な視点は、日本企業の特徴でもありますが、学生からはどのような意見が出ましたか。

ピサノ これについては議論が白熱しました。「30年間も1つのプロジェクトに投資し続けるなんて、非合理的だ」という学生もいれば、「結果的に新しい市場を切り開き、新しいビジネスを成功させたのだから、正しい決断ではないか」という学生もいました。

「現在の組織能力」を基準に考えれば、非合理的な判断となりますが、「将来、新たな組織能力を身につけられる可能性が高い」とすると、合理的な判断となります。正しいと主張した学生は、ホンダがもともと持っている社風や組織能力を高く評価していて、「ホンダだからこの投資判断を支持する」と言っていました。また、「投資してみて、結果が出なくとも、学びは残る。だから決して無駄にはならない」と発言していた学生もいました。

人の力を信じるホンダの経営判断

佐藤 ピサノ教授が特に面白いと思ったのは、どんな話でしたか。

ピサノ これも長期的な視点に関わることですが、質疑応答で、学生から「なぜもっと早く規模を拡大しないのですか。こんなに売れているのならば、もっと最初から増産すればよかったのではないですか」という質問が出ました。すると、藤野氏は次のように答えたのです。

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