日経Gooday

そんな非常に困難な経験を乗り越えるには、子供が欲しいという夫婦の絆が大事になります。全員がハッピーエンドの結果になるわけでもなく、ダメだったとしても、そうした経験を乗り越えようとすることで夫婦の絆は深まるものではなかろうかなどと、役を演じることでいろいろ考えさせられました。観てくださるお客様にも考えるきっかけになればうれしいし、かといってそんな堅苦しい話にもなっていません。笑って無責任なことばかり言う濱田岳くんが演じる出版社の編集担当や、伊東四朗さん演じる妊活に反対する義父も登場して、悲喜こもごもを笑いのオブラートに包んで細川徹監督は作っています。楽しんで観ていただける作品です。

――妊活がなかなかうまくいかない妻を支える夫を、どのように演じようかと思いましたか?

奥さんは年下ですが、主導権は握っているしっかり者の設定です。尻に敷かれた夫は、不妊治療の進行も奥さんに委ねつつ一緒に取り組みます。でも治療がうまくいかない現実に対し、普段は気丈に振る舞う頑張り屋の年下妻がふと見せるもろさやはかなさに、心をつかまれる世の男性がほとんどではないでしょうか。僕自身、自然に湧き出る感情で演技させていただきました。

年齢にあらがいつつも現実を受け止める

――ご自身は50代になって健康について、どんなことを心がけていらっしゃいますか。

55歳定年が当たり前だった時代から、人生100年時代といわれるようになった今では60歳定年、延長して65歳まで働くなど、長く働くことが珍しくなくなってきました。でもたいがいが50代で役職定年と言われ、「もうそろそろ終わりだぞ」と耳元でささやかれるのが現実です。

そうしたなか、「僕はまだまだできる」という年齢にあらがう気持ちと、受け入れなければいけない肉体の衰えという現実に折り合いがつかないと、精神的な不調を来すことが起こり得る年代でもあると思います。だから、できる限りあらがいつつも、現実を受け入れる覚悟を持つことが大事なように思いますね。

――実際にどんな変化を感じていますか?

僕は長年、自分で車を運転して現場に向かっていたので、前の晩にお酒を飲んだら、アルコールチェッカーでチェックしてお酒が体内に残っていないことを確認してから乗車していました。でも、近年お酒が残る時間が長くなっている気がして、去年、お酒をすっぱりやめたんです。今まではお酒が大好きで、限りなく飲んでいたのですが、酒に弱い遺伝子があるのか僕は飲むと赤くなるタイプで、やはりどこか不調を来すこともありまして……。

たまたま僕が演じている『孤独のグルメ』(テレビ東京)の井之頭五郎という男も飲めないのでね、これを機にやめようかと思いました。案外すんなりやめられて、その分、甘いものを食べる時間がすごく大事になりました。

――何がお好きなんですか。

僕はカステラ工場の隣で生まれ、誕生日も祝い事もカステラを食べていたくらい、基本的に卵と小麦粉と砂糖で作られたものが好きでして。フィナンシェやマドレーヌ、パンケーキ、バウムクーヘン、プリンなんかも好きです。そうしたモノを楽しむおやつの時間が今の唯一のリフレッシュタイムというか、至福のひとときになっています。そうすると自分がだんだん女性化していくような感じがして、最近、女性誌のスイーツコーナーを見て「この店のこれを食べてみたいな」と思うようになってしまいました(笑)。

――そんな甘いものがお好きで、『孤独のグルメ』でも撮影中たくさん食べていらっしゃいますが、体形が変わらないのが不思議です。

松重 夜中にお酒を飲みながらつまみをダラダラつまむことを考えたら、お酒をやめて15時におやつを食べることの方がよほどカロリーを抑えられて健康的だなとよく分かります。お酒自体にもカロリーはありますし。『孤独のグルメ』の撮影中はたくさん食べるので、その前後で食事を抑えていて、逆に痩せてしまうんですよ。

寝る前のミルク1杯でぐっすり

――睡眠など体を休めることにおいて心がけていることはありますか。

松重 ちょっと前まで人殺しの役などをよく演じていましたが、夕方まで人殺し役を演じていたのに、明日も早朝から仕事があるから早めに寝ろと言われても、なかなかできないのが俳優という仕事です。今は温かいミルクを1杯飲めば大丈夫という体になりまして。外で酒を飲むこともなくなったので、家でミルクと甘いものを食べたら眠くなって夜12時には布団に入るような生活になり、そこそこ睡眠時間は取れて健康的に過ごせています。

――運動は?

松重 朝起きてすぐ、ボストンテリアのチャイという女の子と一緒に5.5キロを散歩しています。ウエアラブル端末で心拍数が1分間100を超えるぐらいのスピードで歩いていて、雨の日でもポンチョを着て散歩しますね。1時間歩けば結構へとへとですが、それぐらい歩かないと「もっと連れて行けよ」という目でチャイが見るもんで(笑)。

散歩から帰ってくると、腹筋ローラーを使った筋トレを10~15分、ストレッチゴムを使ってストレッチをやるのが日課になっています。

――ルーティンを決めていらっしゃるんですね。

年を取るとそのルーティンを守りたがる頑固なじじぃが世の中にはたくさんいるじゃないですか。そうはなりたくないです(笑)。ただ、ルーティンは決まっていると何も考えなくてもいいからラクですね。

(ライター 高島三幸、カメラマン 厚地健太郎)

『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』
 
(C)2019「ヒキタさん! ご懐妊ですよ」製作委員会
“男性不妊”を真正面から描きながらも、ユーモアあふれる語り口が大きな話題となった、作家・ヒキタクニオが自らの体験をもとに書き上げた同名エッセーを映画化。49歳から不妊治療を始めた作家・ヒキタクニオ役を映画初主演の松重豊、愛する妻役を北川景子が演じる。
 
■10月4日(金)から全国ロードショー
■配給:東急レクリエーション

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