2019/10/7

モデルを検証する機会は2019年の5月にもあった。チベット高原のはずれにある洞窟でデニソワ人の顎の骨が発見されたのだ。シベリア以外の場所でデニソワ人の化石骨が発見されたのはこれが初めてだった。この発見を聞きつけたゴクマン氏は、すぐに自分たちの予想があっているかどうかチェックした。驚いたことに、下顎の高さから歯列弓の長さまで、新たに記載された特徴のすべてが一致していた。

見事としか言いようのない研究

今回の研究は早くも古人類研究者たちを熱狂させ、予想値と各種の化石との比較が始まっている。中国の古脊椎動物学・古人類学研究所(IVPP)の呉秀傑氏は、今回提案されたデニソワ人の特徴は、中国北部の許家窯遺跡で発見された正体不明の化石とよく一致しているようだと言う。

ただし、特徴のすべてが一致しているわけではなく、エナメル質の厚さや指先の幅の広さなどは一致していない。しかし、カナダ、トロント大学の古人類学者でデニソワ人の化石形態学の第一人者であるベンス・バイオラ氏は、こうした特徴に固執していると全体像を見落とすことになると指摘する。

「見事としか言いようのない研究です」と彼は言い、限られた情報から最大限の知見を引き出した研究チームの努力を讃える。今回のモデルの精度は、小さな化石をデニソワ人のものと特定できるほどは高くないが、将来の研究の指針として大いに役立つはずだと彼は言う。

ロンドンの自然史博物館のクリス・ストリンガー氏は、「古代のゲノムから探り出すことのできる情報の限界を広げるもので、胸が踊るような研究です」と言う。ただし、この研究は「推定に推定を重ねたもの」であるため、今後、科学コミュニティーによる評価が必要だと付け加える。

例えばコックス氏は、今回の研究でデニソワ人集団内のばらつきがどの程度見落とされているのか不明であると指摘する。コックス氏自身の研究を含め、デニソワ人の遺伝学的研究からは、この集団が非常に広範にわたっていて、一部の集団は数万年にわたり独立に進化していることがわかっている。ある系統のデニソワ人は、ネアンデルタール人との違いと同じくらい、ほかの系統のデニソワ人と異なっていた。

非営利組織トランスレーショナル・ゲノミクス研究所のヒト遺伝学の専門家ニコラス・バノビッチ氏は、今回調査された「メチル化」について、遺伝子の活性を微調整するボリュームのつまみのようなものとたとえる。したがって、研究チーム自身も強調しているように、予想される骨格の特徴は、現生人類やネアンデルタール人と比較した場合にのみ明らかになるものだ。変化の大きさを測ることは今回の研究の範囲外である。

とはいえコックス氏をはじめ、研究者たちは今回の研究に興奮している。「デニソワ人の形態については、私たちはほとんど何も知らないのです」と彼は言う。「どんなに小さな知見でも、私たちには大きな意義があるのです」

(文 Maya Wei-Haas、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年9月24日付]