2019/10/7

古人類学者は伝統的に、化石骨格を利用して古代ヒト族を分類してきた。しかし、デニソワ人の化石はなかなか見つからず、その姿を復元できずにいた。

そこでカーメル氏らの出番となった。DNAは、身体的特徴を決定するタンパク質の設計図のようなものだ。しかし、この設計図は本のように単純に読むわけにはいかず、どの文字の連なりがどのタンパク質に対応していて、個々の遺伝子がどのくらい活性化しているかがわかっていないと読み解くことができない。

進化の過程で遺伝子の活性が抑えられる場合があるが、その方法の1つが、DNAの特定の場所にメチル基のタグをつける「メチル化」である。例えば、ゲノムの特定の場所に付いていたメチル基が失われると、さまざまな種類のがん細胞がいっせいに成長を始めることがある。

デニソワ人の発見の報告から約1年後、ゴクマン氏らは古代人類のDNAにたまたま保存されていたメチル化のパターンを調べていた。彼らはネアンデルタール人と現生人類のゲノムのメチル化のパターンの地図を作り、解剖学的特徴や疾患と関連づける研究をしていたが、さらに大胆な一歩を踏み出すことにした。DNAのメチル化を利用してデニソワ人の身体的特徴を予想しようというのである。

現在は米スタンフォード大学の博士研究員であるゴクマン氏は、「どんな結果になるのか、確信はもてませんでした。過去にそんな研究は行われていなかったからです」と説明する。

メチル化が果たす役割を見きわめるため、研究チームはヒトのさまざまな疾患の基礎となる遺伝子変異のデータベースを詳細に調べた。遺伝子変異はメチル化と同じように特定の遺伝子を不活化する。データベースは、特定の変異によって指が長くなるか短くなるかなど、変化の方向を知るのにも役立った。

研究チームは用心のため、遺伝子と無理なく結びつけられるような骨格上の特徴だけを予想した。例えば、1つの特徴をコントロールする遺伝子が複数あるときには、各遺伝子の変化の方向が同じである場合にのみモデルに含めることにした。

「つまり、ある特徴について、遺伝子Aが『アヒルに似ている』と言い、遺伝子BもCも同じことを言っている場合にかぎり、『アヒルに似ている』と予想するのです」とゴクマン氏。「『ガチョウに似ている』と言う遺伝子が1個でもあれば、その特徴は予想から除外します」

こうして同じ方向の変化だけを集めた彼らは、同じ方法で、現生人類と比較したときのネアンデルタール人とチンパンジーの骨格の違いを予想してみた。その結果、85%の精度で骨格の違いを予想することができた。

ネアンデルタール人に似ているが

Jason Treat, NG STAFF. SOURCE: Liran Carmel and others, Cell, September 2019.

意外ではないかもしれないが、研究の結果は、狭い額やがっしりした顎など、デニソワ人の外見が既知の最も近い親戚であるネアンデルタール人によく似ていることを示している。けれども重要な違いもある。

「私たちが見ているのはネアンデルタール人ではありません」と、ニュージーランド、マッセイ大学のマレイ・コックス氏は言う。「現生人類ともネアンデルタール人とも大きく異なる、第三のグループの人類です。非常に興味深いものです」

注目すべきは頭頂骨(頭蓋の上部にある左右一対の四角形の板状骨)の幅の広さだ。河南省で発見された10万~13万年前の2点の頭蓋骨の破片は、この頭頂骨の幅が非常に大きかった。そのうちの1点の測定値は同時代のものの中で最大だった。多くの専門家がこの化石はデニソワ人だろうと考えているが、DNAがないため断定できずにいる。

今回の研究は、頭頂骨の幅が現生人類やネアンデルタール人よりも広いことが、デニソワ人の手がかりとなると予想する。河南省で出土した頭蓋骨化石の8つの特徴のうち、7つが研究チームの予想と一致していた。

カーメル氏はそのときの気持ちを「最高の喜び」と振り返り、「神からの啓示のような発見でした」と語る。

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見事としか言いようのない研究