ポスト2020のリーダー力(中)

ポスト2020のリーダー力(中)

同社の経営刷新は約30年前、創業者の次男である山本昌作副社長が、父親たちが朝から晩まで油まみれになって単純作業に従事し、薄利しか得られない姿を見て「これが正しい人間の働き方なのか」と疑問を持ったところから始まったという。

そこから「夢工場」づくりのビジョンが生まれ、自動化、ノウハウのデータ化、独自の生産管理システム「HILLTOP system」の実現、24時間無人稼働、月間3000種類の生産と新規なら5日、リピートなら3日の超短納期、20%を超える利益率(一般的な鉄工所は約5%)など、まさに夢が実現している。

昌作氏の遺伝子は経営戦略部長を務める息子の勇輝氏が受け継ぐ。あるとき入山教授が勇輝氏に「いま、何に注力しているのか」と問うと、「会社のバーベキューパーティーの準備です」と明るく答えたという。「経営者一族の勇輝さんはゆるい感じだし、社員も若く、すごく自由な雰囲気がある」と入山教授は話す。まさにサーバントリーダーである。全国から有能な若手エンジニアが集うヒルトップは業績も絶好調という。

ビジネススクールも進化する

早大ビジネススクール(WBS)で教壇に立つ入山教授は、自身が所属する学校の進化も熱く語る。入山氏によると、「WBSもまたティール組織のよう」だという。各教員が「ビジネススクールを良くして、すばらしいリーダーを育てよう」という価値観のもと、かなり自由、自発的に動いているという。入山氏も独自にWBSで様々な活動をしている。

「海外のトップビジネススクールではアートやデザインスクールとのコラボレーションなど、右脳的な要素の開発にも注力している」

「特に私がWBSの学生に取り込もうとしているのはパッション。現代の優れた経営者やリーダーには経営学の理論一般はもちろんのこと、ビジョンの根源となるパッションが不可欠。でもそれは、私のような学者型の教員によるレクチャー形式だけではピンと来ないので直接、起業家の方々を招いて、パッションだけを熱く語ってもらうディスカッション型プログラムをスタートしたところ、大好評を博している」という。話題のRIZAPグループ社長の瀬戸健氏や、新興国で生産した服飾雑貨を手掛けるマザーハウス(東京・台東)創業者の山口絵理子氏、ライフネット生命保険の創業者で立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明氏など、入山教授の感性でいまとこれからのリーダーにふさわしい人物を次々招へいしている。

一般にビジネススクールでは戦略やファイナンス、マーケティングなど経営に関するハードスキル(体系化・形式化された知識・技能)を習得するのが基本であり、物事をロジカルに考える左脳を鍛えることが主だったが、イノベーションが最重要視される昨今では、ひらめき、感情、感覚といった右脳思考が脚光を浴びている。「海外のトップビジネススクールではアートやデザインスクールとのコラボレーションなど、右脳的な要素の開発にも注力しており、そうした流れを少しでも効果的なかたちでWBSでも取り入れたい」と入山教授は語る。

左脳を鍛えずして右脳は鍛えられない

一方、日本のビジネスパーソンは世界のビジネスリーダーでは常識となっている、最低限のハードスキルの習得さえおぼつかないのが現状だ。

入山教授はさらに続ける。「VUCA時代は左脳的なビジネス知識・ハードスキル、経営理論も当然重要だ。むしろこれは最低ラインとして不可欠であり、論理思考や、ファイナンスなど数字の感覚がなければ、ビジネスの右脳も鍛えられない。しかし、20世紀を生きた日本企業では、経営者だけでなく、それを仰ぐミドルのビジネスパーソンも社内での経験や政治ばかりに腐心し、経営学など一定のエビデンスがある科学・理論・ハードスキルへのアクセスがおろそかにされてきたように思う。いまはビジネススクールはもちろんのこと、書籍やネットでも一定のハードスキルが得られる時代、ぜひそうした理論を備えてほしい」

自由な発想と行動で大いに学び、自身のアタマで考える。そして、それを継続することがいまとこれからのリーダーに不可欠な要素であることは間違いない。

<<(上)リーダーはストーリー語れ 一橋ICS・楠木教授
(下)リーダーならば青ペンを持て ボルボ日本法人社長 >>

ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら