武蔵、息づく学問の伝統 新校長が描く「進化」の道武蔵高校中学(上) 教育ジャーナリスト・おおたとしまさ

進路志望の実現とグローバル教育の拡大

――43年ぶりの母校の印象は。

「建物は変わっていましたが、校舎を囲む自然は変わっていませんでした。生徒と先生の距離の近さや空気感も。10代の子どもたちの様子は、時代が変わっても変わりませんね。背伸びして、考えて、もがくみたいな」

――浦高と武蔵の似ている点、違う点はどこでしょう。

「どちらも男子校です。教養主義的、全人教育的なところは似ています。失敗を認め、失敗を乗り越える力を養う方針も同じですね。浦高は、どちらかというと体育会系なノリが強いですが、武蔵は文化系の学問的雰囲気があります。(長い距離を歩き通す)強歩大会があるのは同じです。ただ、浦高は50キロを7時間以内という結構過酷な設定です。武蔵では距離は20キロくらいですが、毎年生徒が主体的にコースを変え、警察との交渉も自ら経験することなどに行事としての重点があります」

――校長としての展望は。

「武蔵の良さや強みを生かしながら、高慢な気持ちは排して、必要な進化をしていきたいと思います。強みは『自調自考』の理念とそれを実現する環境があることです。これは現在議論されている高大接続の理念とも一致します。進化とは、進路希望の実現とグローバル化のさらなる進展です。10年後、20年後を見据えて人を育てるのが、もちろん大切ですが、進路希望の実現にもしっかり向き合う必要があると感じています。さらに、グローバル教育を量的に拡大します」

――どうやって実現しますか。

「『具体的にこうします』と打ち出の小づちを振るのではなくて、関係者みんなで課題認識を共有し、それぞれに解決策を考えることが大切だと思います。そのなかで、進路希望の実現が最重要課題のひとつなのは間違いないので、進路情報委員会という組織を量的・質的に強化することにしました。具体的な施策の数々がすでに現場の先生たちから提案されています」

19年の入学式で、杉山さんは次の3つを掲げた。

・自分が恵まれているという自覚とそのことへの感謝の気持ちを持て

・人生をかけての志を持て

・自ら調べ自ら考えよ

そのうえで最後に、アメリカの詩人エラ・ウィーラー・ウィルコックスの「人生の嵐」という詩を朗読した。

吹いている風がまったく同じでも
ある船は東に行き、ある船は西に行く
進路を決めるのは風ではない
帆の向きである
人生の航海でその行く先を決めるのは
なぎでもなければ、嵐でもない
魂の構えである

公立校の教員として35年におよぶ航海を終えたばかりの船長が舵を取る武蔵のこれからが注目される。

(中)あえて英語圏でない国へ 「一人旅」させる武蔵 >>

武蔵高等学校中学校(東京都練馬区)
創立は1922年。東武鉄道オーナーの根津嘉一郎(初代)が資金を出し、日本初の私立旧制7年制高校として開校した。「自調自考」が合言葉的に使われる。1学年は約160人。2019年の東京大学進学者数は22人。卒業生には、東大総長の五神真氏、早稲田大学総長の田中愛治氏、社会活動家の湯浅誠氏などがいる。

新・男子校という選択 (日経プレミア)

著者 : おおたとしまさ
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 935円 (税込み)

管理職・ミドル世代の転職なら――「エグゼクティブ転職」

5分でわかる「エグゼクティブ力」
いま、あなたの市場価値は?

>> 診断を受けてみる(無料)

「エグゼクティブ転職」は、日本経済新聞社グループが運営する 次世代リーダーの転職支援サイトです

NIKKEI 日経HR


今こそ始める学び特集
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら
注目記事
今こそ始める学び特集
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら