家ごはん人気で好調な炊飯器 おいしさ追求、革新続く
大河原克行のデータで見るファクト
消費増税によって、外食産業には逆風が吹いている。食品の消費税率は軽減税率の適用によって8%に据え置かれたため、「内食」に対しては追い風が吹いており、家庭でおいしい食事をするための調理家電にも注目が集まっている。
一般社団法人日本電機工業会によると、ジャー炊飯器の2019年7月の国内出荷実績は、前年同期比4.0%増の37万7000台、出荷金額では5.4%増の80億8900万円となった。民生用電気機器全体の出荷金額が前年比14.2%減と2桁の減少になっていることと比較すると、好調である。8月の実績でも同様に民生用電気機器全体の出荷金額の伸び率を上回っている。
タイガー魔法瓶が実施した「増税と食事に関する意識調査」によると、回答者の78.3%が、増税に伴って、「外食の頻度を減らしたい」としており、内食の比率が高まる傾向が見て取れる。同調査では、「家でもおいしい料理を食べたい」という回答が95.0%を占めており、「家でご飯を食べるとき、お米にこだわりたい」という回答も72.3%に達している。「増税後は、外食の頻度を減らして、家でおいしいご飯を食べる」という意向を持っている人はかなり多そうだ。
炊飯器は、日本の家電メーカーが最もこだわっている商品領域である。
おいしいご飯を炊くために、毎年進化を遂げており、成熟市場でありながらも、常に革新が続いている。
フラッグシップの基本技術変えた象印
国内トップシェアを持つ象印マホービンは、2018年に創業100周年を迎えたのを機に、炊飯の原点に立ち返って、同社の代名詞であった「かまど炊き」を再度検証。新たに「炎舞炊き」を開発して、ご飯のおいしさを大きく進化させた。
同社売上高の約4割を占める炊飯器事業のフラッグシップ製品の基本技術を見直すという大胆な取り組みだ。
古民家のかまどを使って、ご飯を炊くときに炎が動く様子を、赤外線カメラを使って観察。炎の「ゆらぎ」によって炎が部分的に集中加熱することで釜内に温度差が生じ、釜内に激しく複雑な対流をもたらしていることに着目して開発した「炎舞炊き」は、従来製品では本体下部に1つしか搭載していなかった底IHヒーターを3つ配置。それぞれを独立制御する「ローテーションIH構造」を業界で初めて採用することで、3つのヒーターが数秒ずつ入れ替わって加熱。炎の「ゆらぎ」を再現している。 従来の炊飯器の多くが、釜全体を均一に加熱するのに対して、逆張りともいえるモノづくりに挑んだ商品だが、大火力で釜内のお米を大きくかき混ぜることで、ふっくらと弾力のある、甘み豊かなご飯を炊き上げることができるという。
同社の調査によると、従来の「極め羽釜」でも88%の人がおいしさに満足していたが、新たな「炎舞炊き」では、95%の購入者がおいしさに満足しているという。
19年の新製品では、炎の「ゆらぎ」を改良。炊飯における重要なポイントである「中パッパ」工程から、炎のゆらぎを段階的に激しくすることで、甘み成分のひとつである還元糖量を向上させた。
さらに、4合炊きの小容量タイプを追加。50歳以上の夫婦のみ世帯をターゲットに提案するという新たな取り組みも開始した。
単独世帯や核家族世帯の増加を背景に、今後は小容量炊飯器の需要が伸びるとの予想もあり、4合炊きというこれまでにない容量で市場をリードする考えだ。
1合にこだわったタイガー魔法瓶
タイガー魔法瓶は、看板商品である「炊きたてシリーズ」を発売してから50年目の節目を迎えた今年、土鍋の高い蓄熱性と遠赤効果が生み出す約280度の高火力と、力強くて、やさしい泡立ちによる炊き方ができる「土鍋ご泡火(ほうび)炊き」を新たに開発。単に、米を激しい対流でかき混ぜるだけでなく、土鍋ならではの細かな泡で包み込んで沸とうさせることで、米の表面を傷つけずにうま味を閉じ込めて炊きあげることができるのが特徴だ。
さらに、お茶わん約2杯分となる1合を、最適な炊飯空間で炊きあげる「一合料亭炊き」を採用した「炊きたて 土鍋ご泡火炊き JPG-S100」を発売。小容量の炊飯にも着目している。
5.5合炊きという容量ながら、専用の土鍋中ぶたを採用することで、1合という少量でもおいしく炊きあげられる。同社では、「料亭のようなごはんがご家庭で楽しめる」と提案する。
「一合料亭炊き」で炊いたご飯は、従来機種で炊いたときに比べて、弾力性が約10%、粘りは約18%向上し、かむほどにうま味が感じられるとしており、いつも食べたい量だけを炊いて、あつあつのご飯を食べるといった提案につなげる。
ちなみに、内なべは、陶器の本場である三重県四日市市の伝統工芸品「四日市萬古焼」を使用。細かい特別な土を使って、約1250度の高温で焼きあげたという。
「外硬内軟」目指す日立「ふっくら御膳」
日立グローバルライフソリューションズが発売する炊飯器「ふっくら御膳」は、京都の老舗米屋で料亭も営む「八代目儀兵衛」のご飯のおいしさを目指して開発したものだ。
八代目儀兵衛が理想とするのは「外硬内軟(がいこうないなん)」のご飯。「ひと粒ひと粒しっかりとした食感で、かむと甘みが広がるおいしさ」のことを指している。
米にしっかりと吸水させる「じっくり浸し」、最高で1.3気圧まで圧力をかけて、沸点を最高で107℃まで上昇させ一気に加熱する「圧力加熱」、再加熱し、余分な水分を飛ばす「仕上げ加熱」、107℃のスチームを使いながら、おいしく炊ける98℃以上の高温をキープしながら蒸らす「圧力スチーム蒸らし」によって、「外硬内軟」のおいしさを再現したという。
日立では、この炊飯方式を「極上ひと粒炊き」と呼び、八代目儀兵衛の橋本晃治料理長は、その出来栄えに太鼓判を押しており、実際、八代目儀兵衛の夜のコースの一部などに、この炊飯器を利用しているという。
このように各社から発売されている炊飯器は、各社ならではのこだわりが詰まったものばかりだ。パナソニックや三菱電機、東芝ライフスタイルといったメーカーもその姿勢は同じである。
これから新米のおいしい時期を迎える。家でご飯をおいしく食べたいというのは、多くの日本人に共通したものだろう。増税によって、その思いはさらに加速したともいえる。
日本電機工業会は、11月23日を「炊飯器の日」に定めている。お米の収穫を祝う新嘗祭が行われることにあわせたものであり、日本食に欠かせないお米の収穫への感謝とさらなる消費拡大を願ったものだという。
食欲の秋に向けて、おいしいご飯を食べるために、炊飯器の買い替えを検討してみるのもいいかもしれない。
(ライター 大河原克行)
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