セガサミー・GMOにもある オフィスバーで何飲む?
企業の福利厚生の一環として、料理や空間づくりにこだわりを持つさまざまな社員食堂をこれまで紹介してきた(「ソニー・スクエニ・東京税関 グルメすぎる社員食堂」 など)。今回フォーカスするのは「オフィスバー」。社員食堂があるだけでなく、夕方以降にビールやハイボールなどアルコール飲料を提供しているオフィスバーを備える企業が少しずつ増えている。オフィスバーがあることでどんなメリットが生まれているのだろうか。酒によって仕事の生産性が下がるなどデメリットはないのか。社員食堂内にオフィスバーも備えている都内2つの企業を紹介しよう。
まずは、東京・渋谷に本社を構えるIT企業GMOインターネット。渋谷駅徒歩6分のところにあるセルリアンタワー内に、同社を含む主要なグループ会社及び関連会社の合計10社のオフィスが入居し、派遣社員なども含め約2000人の従業員が勤務している。その従業員が誰でも利用できるコミュニケーションスペースが「シナジーカフェ GMO Yours(ジーエムオーユアーズ、以下GMO Yours)」だ。
2010年10月に、GMOインターネットグループ代表の熊谷正寿氏が福利厚生に関する全社アンケートを実施。「食堂を作ってほしい」という意見が最も多かったため、社員食堂の開業に踏み切った。そして「世界一のサービスを提供するために、世界一の人財が集まる場」をコンセプトに、従業員の中から有志を募り、食堂プロジェクトメンバーを決定。8人のメンバーが中心となってアイデアを出し合い、その結果、食堂という枠にとらわれないコミュニケーションスペースとして11年6月にGMO Yoursがオープンした。その際、コミュニケーションの活性化のため、バー機能も備えた作りにしたという。
平日8時から20時(金曜は18時まで)はカフェとして営業。コーヒーやカフェラテなどのドリンク、同じタワー内の東急ホテルのレストランで作った焼きたてパンを提供し、ランチタイム(12時から14時)にはビュッフェスタイルでランチメニューが楽しめる。20時以降は自動販売機を利用し、ファミリーマートのおにぎりやサンドイッチを食べることも可能。これらすべての料理、飲み物が無料で提供されている。そして毎週金曜の19時から22時はバータイムとなり、そこで提供されるアルコール飲料や軽食もすべて無料なのだ。
同社では海外とのやり取りも多く、またシフト制のカスタマーサポート業務やフレックス制のシステム開発業務などで勤務時間が遅い時間の従業員もいる。そのため、24時間365日すべて無料で利用できる場所が必要と考えたのだという。「バータイムを設けたのは、プロジェクトメンバーの提案の中に『お酒を飲みながらパートナー(従業員)同士が気軽にコミュニケーションを取れるようにしたい』という意見があったためです。食事だけでも交流はできますが、お酒が入ることでよりカジュアルに交流でき、より親交が深まると考えています」と話すのはGMOインターネット グループ広報・IRチーム 高橋彩英さん。
バータイムに提供されるのは、生ビール、カクテル、焼酎などバリエーション豊富なアルコールメニュー約40種で、すべて無料だ。熊谷氏がワイン好きということもあり、スペース内にワインセラーも設置。ソムリエが選んだとっておきのワインが振る舞われることもあるという。軽食はケータリングを用意。時には専門店の職人を呼んで窯でピザを焼くといったイベントを開いたり、事前に予約をすればオードブルなどを用意することも可能だ。GMO Yoursの中には調理スペースがないため、基本的にフードメニューは外部サービスを利用して提供している。
金曜日、19時。照明が暗くなり、GMO Yoursには従業員が集まり始める。アルコールの提供が始まるとカウンターには行列ができ、従業員は順番に好きなドリンクを注文していく。スペースの奥にはDJブースまである。会社公認の部活「GMO DJ部」に所属する従業員が本職のDJさながらのプレイを披露。軽快な音楽が流れる中、酒を片手に従業員同士でにぎやかに語らう様子は、まさに金曜の夜ならではの光景だ。バータイムは金曜の夜、3時間だけだが、平均して490人ほどが利用するという。
「パートナーからは、『普段交流しない部署やグループ会社の人と交流することで、新しいアイデアや新鮮な発想に触れられる』と好評です。弊社はもともと従業員のことを『パートナー』と呼ぶなど、上下関係を作らないというのが全社的な考え。お酒があることで、所属している会社や部署、役職にかかわらず横のつながりが生まれ、『仕事がやりやすくなり、事業スピードや開発スピードがアップした』と、業務の活性化にもつながっているようです」(高橋さん)
同社は19年11月に渋谷エリアに新たな拠点を設け、第二のGMO Yoursも開業予定。現在の座席数は150席で、開業当初から増え続ける従業員数に対応できておらず、混雑しがちなことが常に課題だったため、新しい施設は座席数が現在の3倍になり、調理スペースも設置する予定だ。24時間営業、食事の無料提供、金曜のバータイムは新GMO Yoursでも継続予定。「コミュニケーションによってさまざまなシナジーが生まれて、ビジネスだけではなく多彩な関係性を構築できる場になってほしい」と高橋さんは語る。
続いては都内、山手線のJR大崎駅にほど近い住友不動産大崎ガーデンタワー内にある総合エンターテインメント企業、セガサミーホールディングス。04年10月にセガとサミーの経営統合によって設立された同社は、18年に現在の場所へオフィスを移転。現在グループ会社20社、約6500人の従業員がここで働いている。オフィス移転の際、拠点がバラバラだったグループ会社の多くが集約され、大勢の社員のくつろぎの場、クライアントとの交流の場になるようにと社員食堂「JOURNEY'S CANTEEN(ジャーニーズキャンティーン)」が作られた。
食堂全体の座席数は700席、約2000人の喫食に対応しているという広々としたスペースが特徴だ。その一角にあるのが、バーエリア「&BAR(エンデバー)」だ。平日17時から22時をバータイムとし、日中はコーヒーや軽食を販売しているカフェスペースで、アルコールやつまみメニューを提供する。以前、バータイムは18時営業開始だったが、フレックス制の導入、海外からのゲストへの対応などから「もう少し早い時間からお酒を飲みたい」という要望が増え、開始時間を繰り上げたのだという。
ランチタイムは基本的に従業員のみの利用だが、バータイムは来客も帯同可能。就業後に軽く一杯飲むのはもちろん、団体用の飲み会プランもあり、歓送迎会やプロジェクトが終わった際の打ち上げ、部署ごとの懇親会などで予約利用されることも多い。ダーツマシンや大型ディスプレー、TVゲーム、カジノテーブルやビリヤードなどもあるため、ただ酒を飲むだけではなく、飲みながら思い思いに楽しめる点も好評だ。
アルコールは生ビールやハイボール、ボトルワインなど全25種(280~2400円)、またさまざまな種類のクラフトビール(500円~)も楽しめる。バータイムの1日の利用者数は約150人で、イベントがある日はさらに増えることも。取材時はちょうどグループ会社が運営する宮崎県の複合リゾート「フェニックス・シーガイア・リゾート」とのコラボイベント中で、ホテルで提供されている自家製ミントを使ったモヒートも販売されていた。以前、同様のコラボイベントを行った際、1日で約100杯を売り上げたという人気メニューだという。
その他、新作ゲームの発売・配信などに合わせ、作品のイメージにちなんだカクテルが提供されることも多いという。就業後にエンデバーで1、2杯軽く飲んで、もっと飲みたければ外の店に移動するというパターンも多いそうだ。
「ダーツやMリーグ(マージャン)の試合・イベントに弊社所属チームやスポンサードしているチームが出るときはパブリックビューイングを開催することもあります。普段は話したことがない社員同士が共通の趣味を通じて交流している様子も見かけます」(セガサミーホールディングス ファシリティサービス部 コミュニケーション推進課担当課長 大沢けいさん)
エンデバーの開業当初、社内からは「仕事する場所とお酒を飲む場所が一緒というのは後ろめたい」「ほかのフロアでまだ仕事をしている人がいるのに飲んでもいいのか」と抵抗感があるという意見もあったが、すぐになくなったという。従業員が実際に利用してみた結果、その使い勝手の良さを感じられる場面が多々あり、次第に受け入れられるようになっていったそうだ。
「わざわざ店を予約して行くほどでもないけど、ちょっと飲みたい。新人歓迎会をやりたいけどあまり大きな飲み会にすると主役が萎縮してしまうかも、といった気軽に交流したいというシーンにエンデバーはぴったりなんです」と大沢さん。酒を飲めない人や、家庭があって早く帰らなければいけないワーキングママなどでも、参加しやすい雰囲気と環境で好評だという。
今後は女子会プランやバースデープランなど、お得感のあるプランを拡充し、「より気軽に、手軽に飲める」という点をしっかりと訴求していく予定だ。さらに社員や外部利用者との交流機会を増やすことが目標だ。
オフィスバーを導入するメリットは、飲食店に飲みに行くよりも心理的なハードルを下げ、従業員がよりリラックスした雰囲気で、気軽に利用・交流できる点が大きいようだ。「飲みニケーション」という言葉は死語になりつつあるが、「オフィス内で軽く一杯」で社員同士の関係が良好になるのなら、取り入れてみる価値はありそうだ。
(フードライター 古滝直実)
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