モチモチヘルシー、米粉パンいかが 専門店や機内食も
小麦粉の代わりに、コメをすり潰した「米粉」を使った商品が続々登場している。低カロリーとあって健康を気にする女性の間で人気が広がっているほか、小麦アレルギーなどで小麦粉入りの食品を食べられない人たちの需要を取り込んでいる。特に欧米では小麦粉を食べない「グルテンフリー」の食生活を送る人も多く、2020年の東京五輪が普及拡大の契機になるかもしれない。
「『米粉はヘルシーな食材』と女性客から人気です」。こう話すのは、精米機製造やコメ販売の東洋ライスが今年3月、東京・銀座にオープンさせた米粉グルメ専門店「キンメッコ キッチン」の小林純一店長。「来店客の9割が女性で、リピーターも増えています」
店は銀座の大通りから路地に入った東洋ライス銀座本社の入る東洋ライスビル1階にある。
米粉を使ったパンやパスタ、ロールケーキなどのスイーツ、計30種類ほどを取りそろえる。特に人気なのは看板メニューの一つ「キンメッコパン」(1袋800グラム、税別900円)。米粉100%使用のパンだ。
9月下旬、休暇を利用して千葉県から来店した会社勤めの女性(47)はキンメッコパンを3袋購入した。「米粉パンは腹持ちがよくカロリー摂取を控えられる。特にここのパンは小麦よりも甘みが感じられる」と話す。
キンメッコパンは、玄米のビタミンなどの栄養素を残した「金芽米」をすり潰した米粉を焼き上げている。
米粉人気の一つが、小麦に比べ低カロリーな点だ。文部科学省の「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」によると、米粉は100グラムあたりで255キロカロリー。小麦の食パン(260キロカロリー)よりも僅かに低いだけだが、小麦と比べて水分量が多く腹持ちがいいため、女性らの間でダイエットに向くとみられているようだ。
米粉へのニーズには、小麦アレルギーなどへの対応もある。消費者庁の調査によると、小麦は鶏卵、牛乳に続き3番目に多い食物アレルギーの原因。
実は記者自身(25)も小麦アレルギーの疑いがあり、小麦を使った食品を食べると、体が震えたり体調不良に悩まされたりする一人だ。以前はそんなことはなかったが、学生時代に食費を抑えようと、数カ月もの間、安いうどんや麺などを連日のように3食食べ続けていたせいかもしれない。このためパンは1年近く食べていない。
取材に訪れた東洋ライスの店で、久しぶりに食べるパンに心を躍らせつつ試食してみた。
ちぎって口に運ぶと、モチモチした食感で濃厚な甘みがある。「おいしい」。普通のパンと比べても湿り気があってパサパサ感が少なく食べやすかった。体調不良も起きない。「小麦を食べられないから渋々食べる」代替品ではなく、食材としての可能性を感じた。
米粉を使った商品開発を進めるコメ生産法人もある。孫作(新潟県刈羽村)だ。
米粉のほか、「米粉100%使用」のパスタやシフォンケーキなど約10種類を出荷する。米粉も安い加工用のコメではなく、主食用のコシヒカリを使っており「雑味がなくなり食味が増す」(水品栄人社長)。
「わざわざ検索サイトで探して買ってくれる消費者が多い。小麦を食べられない人がいかに多いか実感する」と、水品社長は話す。県内のスーパーやネットで販売しているが、遠く九州からも注文が入るという。18年の出荷量は約1トンと、事業を本格化した13年に比べ5倍になった。
実際、米粉の需要は伸びている。農林水産省によると、18年度の米粉需要は3万1千トンと過去最多。19年度はさらに5千トン多い3万6千トンになる見通しだ。普及が本格化した09年に比べ6倍強に伸びている。
かつてはコメを細かくすり潰せず粒が粗かったため、米粉が使われるのはせんべいや団子などに限られていた。近年は粒を細かくできる機械が製粉業者に普及、「品質が向上し、パンの原料に使うケースが増えている」(農水省)。
米粉普及を促そうと、業界団体の日本米粉協会(東京・千代田)も18年6月から製品の「ノングルテン米粉」の認証を始めている。
普及を後押ししそうなのが、来年の東京五輪だ。海外から大挙して観客が訪れるが、特に欧米では小麦を食べられない人が少なくないようだ。グルテンフリーライフ協会(東京・新宿)によると、米国で小麦に含まれるたんぱく質の「グルテン」を摂取すると体調が悪くなる「グルテン過敏症」の患者は20人に1人の割合にのぼるという。
全日本空輸(ANA)は18年9月から「ANAオリジナルグルテンフリー米粉パン」を全路線の機内食で提供し始めた。大手スーパーの一部でもグルテンフリー対応食材の売り場コーナーを設ける動きも出ている。
小麦を食べられない訪日客(インバウンド)需要は日本の米粉商品を海外に訴える機会にもなりそうだ。
(高野馨太)
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