個人の資産形成 今から「長期運用船」へ(澤上篤人)さわかみ投信会長

日経マネー

写真はイメージ=123RF
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ゆうちょ銀行やかんぽ生命保険の不適切販売問題で日本中が揺れている。いくら民営化で収益力を高めなければいけないとはいえ、やり方があまりにもお粗末で短兵急に過ぎた。今回の問題は、いみじくも日本の投資運用ビジネスを象徴している。そのあたりを草刈と話し合ってみよう。

本格的長期投信を設定すべきだった

澤上篤人(以下、澤上) ゆうちょ銀行は民営化に際して大手銀行や外資系金融機関からアドバイスを受けた。そして、手数料ビジネスで食べていくには、どうしたらよいのか……という方向へ突き進んでしまった。これが、そもそものボタンのかけ違いである。

草刈貴弘(以下、草刈) 2005年、郵政民営化が国政選挙の争点となりました。その非効率な運営体制が是正できるのではないかと、国民の多くは民営化を支持します。そして郵政3事業は民営化へとかじを切り、効率化はもちろんのこと、営業でもその努力が試されることになりました。しかし「数値目標を掲げて達成する」という努力の方向性に問題があったのでしょう。

澤上篤人氏(撮影:竹井俊晴)

澤上 我々に相談してくれたら、方向は全く違っていたはずだよ。我々だったら本格的な長期保有型の投信を2本設定し、ゆうちょ銀行の顧客に丁寧に紹介していくべしとアドバイスしただろう。日本株の長期運用ファンドと、グローバル運用のファンド・オブ・ファンズだ。もちろん販売手数料はゼロ。

草刈 今回の件で何より残念だったのは郵貯ブランドの毀損です。多くの国民にとって郵便局というチャネルはとても信頼度が高かった。その社会的信頼を逆手に取って稼ごうとする姿を国民の前にさらしてしまった。培ってきた信頼をベースにして、丁寧にビジネスを進めれば、手数料ビジネスを性急に成り立たせる必要はなかったのに。

澤上 さわかみファンドを見れば、長期の財産づくりは誰でもイメージできたはず。もちろん預貯金など遠く及ばない成績を残している。もし彼らが長期保有型投信を設定していたら、ゆうちょ銀行の社員は自信を持って、厚い信頼を寄せてくれる顧客に自分たちの投信を堂々と販売できていたはずだよ。

草刈 販売する人が自信を持って薦めてくれることほど顧客にとって心強いことはないですものね。売り手にとっても、自分たちに対する顧客の信頼に応えたいという気持ちは何より大切ですから。

澤上 少し時間はかかったろうけど、運用成績の積み上がりとともに、ゆうちょ銀行の投信販売はどんどん加速しただろうね。なぜなら、日本にはまともな長期保有型の投信がほとんどないのだから。

草刈 そのようにして信頼と実績を積み上げていくことが資産運用ビジネスの根幹のはずです。投資もビジネスも短期間でどうにかしようとすると、現場にゆがみが生じたり、嘘や欺瞞(ぎまん)が日常化したりするのではないでしょうか。

自分の成績のため、顧客にとって不利な契約変更をさせるなど、誰でもおかしいと思うだろうし、現場の人間にも相当な葛藤があったはずです。ノルマというものはその当たり前の思考すら奪ってしまう。短期主義の恐ろしさですね。