わかり合えない人とどう付き合う 世代で異なる対処法
上司や後輩が何を考えているのか分からない……。そんな「世代間ギャップ」にストレスを感じている人は、それぞれの世代が過ごした時代背景をのぞいてみませんか? 価値観さえ分かれば、「あの人があんな言動になる理由」が理解でき、イライラがおさまるかも。そこで世代別の人付き合いのコツを専門家に聞きました。
世代別コミュニケーション大研究
好景気に思春期を楽しんだバブル世代の大きな特徴は、消費欲が強く、根拠なき自信があって明るいこと。「若い頃に染みついた『高級=いいモノ』という価値観は消えず、貯蓄率は低い」(サイバーエージェント次世代生活研究所所長の原田曜平さん)。
自信家なのは挑戦できる機会に恵まれ、成功体験が得やすい時代だったから。「多くは苦労せず正社員になれたうえ、就職時は終身雇用が当然。失敗しても会社が守ってくれるし、『人生なんとかなる』と楽観的な人が多い」(マーケティングライターの牛窪恵さん)。
そんな万能感があるからこそ、大谷翔平選手を"二刀流"に挑戦させた栗山英樹監督(57歳)や、箱根駅伝連覇を達成させた青学陸上部の原晋監督(52歳)など、エリート教育にたけた指導者が多いと原田さんは分析する。
だが、基本的に若手の指導は上手ではない。マニュアルがなく上司・先輩の背中を見て仕事を覚え、頑張ればなんとかなった世代なので、コミュ力は高いのに指示が曖昧。「トラブルやミスを防ぐには、『いつまでになんの目的で?』など、若手から細かく確認したり、進捗を共有したりする歩み寄りが大事」(エン・ジャパン人材活躍支援事業部の横田昌稔さん)。
この世代の女性は、女子会や美魔女ブームなど、常に時代の流行を生む担い手。ロールモデルがいないなか、働き続けたという自負がある姉御肌気質も多い。「『Aさんの時代はどうでした?』などと、彼女らの時代や価値観に関心を見せるとかわいがってくれる」(牛窪さん)。
1 自信があって明るい
バブル時代の楽しい記憶が色濃く残り、根拠なき自信があって楽観的。
2 消費欲が高く、貯蓄率が低い
グルメ・ブランド志向が強く、かっこいい生活に憧れる。貯蓄が少ない傾向。
3 現実より夢
好景気の恩恵による成功体験が多く、夢や武勇伝を語るのが好き。
4 コミュ力は高いが、指示が大雑把
対面コミュニケーションが常識。頑張る人=エラい。指示が大ざっぱ。
WOMEN
□ 女子大生ブーム、アラフォー、美魔女など常に時代の担い手
□ パラサイトシングルの「負け犬」も登場
□ お茶くみ、コピー取りは女性の仕事
MEN
□ 多少効率が悪くても、頑張ることをエライとする
□ 他人の目を気にする傾向があり、プライドが高い
□ プライベートと仕事との境界線が曖昧
◇ ◇ ◇
中間管理職が多いこの世代を一言でいえば、ズバリ「不遇」。10代のときにバブル時代を過ごし、競争しながら男女平等教育を受け、男女の大学進学率が並ぶ。だが、就職直前にバブルがはじけ、就職氷河期に突入。フリーターや非正規雇用者を生み、派遣社員として働く女性が増えた。
「報われない時代を生き抜き、野心的でメンタルが強い。とにかく頑張るしかないので、上の世代より真面目で仕事はきっちりする」(原田さん)。一方で「不景気の影響で成功体験が少なく、実は自信がない」(牛窪さん)、「下の世代が入ってこないので下っ端時代が長く、仕事を抱え込みがち」(横田さん)。
そんな彼らのモチベーションのひとつは競争。同世代の人口が多く、高校のときに激しい受験競争を繰り広げてきた世代。「多少効率が悪くても、残業して仕事を頑張ることを美徳とする」(牛窪さん)。働き方改革や出世欲がない若者に対して、歯がゆく思う人も少なくないという。
そんな団塊ジュニアとうまく付き合うには、「仕事に対する闘志や真剣さなど、前向きな姿勢を見せると認めてくれる」(原田さん)。また、「『〇〇さんのおかげで』と後輩から慕われると承認欲求が満たされ、この世代はうれしくなる。一方で仕事を抱え込みがちなので、時間と気持ちに余裕がない。仕事の分担を提案するなどの思いやりが、団塊ジュニア世代の心に染みる」(牛窪さん)。
1 成功体験が少なく自信がない
「チャンスも成功体験も少ないため、自信が持てない」(牛窪さん)
2 現実的で責任感が強く真面目。仕事を抱え込みがち
仕事を誰かに任せられず、抱え込むプレイングマネージャーが多い。
3 自己啓発・自分探しが好き
努力が結果や賃金に結びつきにくく、自分を信じるために自己啓発に頼る。
4 消費に堅実で貯金好き
賃金が上がらず努力の見返りが小さいため、貯金や節約に目線が向かいがち。
5 うつ病のピーク世代
「結果が出ないけれど多忙」「経済的な不安」から、うつ病が多い世代。
【この世代の男女の傾向】
MEN
□ 非正規労働者の未婚の増加
□ イクメン、趣味人おっさん(趣味に走る独身の中年)の増加
WOMEN
□ 高学歴女子、30代になっても子育てしながら働く女性が増加
□ 割り勘OK
□ メンタルが強い人、弱い人が2極化
□ 求める男性像は「3低」(低姿勢・低依存・低リスク)
◇ ◇ ◇
「就職率の変動が大きく、30代の世代の特徴は一概にはいいにくい。大きくは前半と後半で分かれる」と原田さん。30代後半はポスト団塊ジュニア世代で、長引く不況で就職は超氷河期に。大卒の非正規雇用者が増加し、安定志向が高まる。
30代前半はゆとり教育が導入され始めた草食系世代で、「消費、仕事、恋愛もマイペース」(牛窪さん)。一方、「92年以降、競争を重視した教育から個性尊重の教育にシフトし、そのときの小学1年生が85年生まれ(現33~34歳)。以降、自分のキャリアや価値観に合った働き方を模索する個人主義が登場」(ADKマーケティング・ ソリューションズの藤本耕平さん)。「生きるための保険としてキャリアや専門性を磨くことに目を向け、それらに関係ない仕事はやらないという合理主義も」(横田さん)。
そんな彼らの強みは、中高生時代にITが生活の一部になったこと。「ポケベル、PHS、携帯電話などの情報ツールが数年のサイクルで変わり、使いこなす柔軟性がある」(横田さん)。「セルフブランディングしながら、SNSを駆使して自己表現し、社会の注目を浴びる一般人が登場した」(原田さん)。ブロガーのはあちゅうさん(33歳)はその代表格だろう。そんな世代のやる気を高めるには、「合理的な彼らの意見を否定しないこと」と原田さん。「『そういうものだから』で済ませず、その仕事をやる意味や目的を説明する手間を惜しまないで」(藤本さん)。
1 合理主義
「結果やキャリアにつながらないことや、非効率は嫌がる」(牛窪さん)
2 仕事とプライベートは線引き
プライベートを大事にする傾向。仕事との線引きをしながら両立を模索。
3 自己有能感を大切にする
「自分は◯◯ができるといった自己有能感が得られるとうれしい」(横田さん)
4 SNSで自己表現し、自分を大きく見せる
「SNSを駆使し、自分をプロデュースした姿を発信する人も」(原田さん)
5 自分のために経験値やスキルを上げようとする
「組織のためよりも、自分が食べていくためのスキルを求める」(横田さん)
【この世代の男女の傾向】
MEN
□ 草食系が増え、女子化
□ 家事を自然にこなす人も
□ 家族や地元の友達が好き
WOMEN
□ 子育てしながら働くのが当たり前
□ キャリアデザインを考え始める
□ 結婚や出産を含め、女性同士のヒエラルキーを気にする
◇ ◇ ◇
物心ついたときからリストラや倒産などの言葉を耳にしてきた、不景気しか知らない世代。少子化で競争も少なく、頑張っても見返りは期待できないと分かっているので、出世欲が薄いのが特徴だ。
「現状で快適ならシェアリング生活で十分という"まったりさん"。そんな彼らに"ガツガツ精神"を押しつけると驚く。欲がない世代だと理解した上で接して」(原田さん)。「表情やトーンを相手に合わせるなど、分かりやすいコミュニケーションを心がければ、相手は心を開きやすくなる」(横田さん)。
一方、学校や企業でキャリアデザイン教育を受けたからか、「出産などのライフスタイルが変化しやすい女性は、理想の生活から逆算してやるべきことを見いだす人も」(牛窪さん)。また、手探りで始まったゆとり教育のカリキュラムが確立されてからは、「自分は何をやりたいのか」などと自問自答できる有能タイプが増えてきたと藤本さん。
その結果、誰かが喜ぶことにやりがいを見いだすように。「奉仕精神とは異なり、誰かがハッピーになれば自分もハッピーだからというシンプルな動機。『新たな人とつながる』『専門性が高まる』などの見返りもきっちり求める。そんな若者には、この仕事で誰が喜び、社会にどんな影響を与え、自分たちに得られるメリットは何かといったビジョンの共有が効く」(藤本さん)。
1 競争意識、出世欲がなく、基本的にラクでいたい
不景気しか知らないので出世欲や夢が持てず、できればラクして過ごしたい。
2 誰かがハッピーになることで幸福感を得たい人も
人に喜ばれ、自分にメリットがあることにやりがいを見いだす人が増加。
3 個人主義(自分流)
会社のカラーに染まるより、自分の価値観に合う働き方を望むように。
4 励まし合ってみんなで高め合うことに高揚感を抱く
個人の目標より、チームで目標を立てて皆で高め合う環境でやる気を出す。
5 過剰な気遣いや同調圧力も
SNSのコミュニケーションが定着し、空気を読まざるを得ない気遣いが当然。
WOMEN
□ 共働きは当たり前
□ 専業主婦はセレブのような憧れの的
□ 理想の生活から逆算して考えるキャリアデザイン好きも
□ ファストファッション好き
MEN
□ 男女差がさらになくなり、女子寄りに
□ スキンケアなどが習慣に
□ 異性とよりも居心地のいい、同性の男子会を好む
この人たちに聞きました
マーケティングライター、世代・トレンド評論家。出版社勤務などを経て、マーケティングを中心に行うインフィニティ代表に。経営学修士(MBA)。内閣府「経済財政諮問会議」政策コメンテーターなどを務める。『「おひとりウーマン」消費! 巨大市場を支配する40.50代パワー』(毎日新聞出版)など著書多数。
サイバーエージェント次世代生活研究所所長。博報堂を経て現職。日本のマーケティングアナリスト。1万人以上の若者と接してきた経験を元に「さとり世代」「マイルドヤンキー」「女子力男子」などの流行語を生む。『若者わからん! - 「ミレニアル世代」はこう動かせ 』 (ワニブックスPLUS新書)など著書多数。
エン・ジャパン人材活躍支援事業部コンサルタントグループ チーフコンサルタント。総合商社でインドネシア赴任などを経てエン・ジャパンへ。コンサルタントとしてベンチャーから大手企業向けに採用支援教育、営業支援ならびに管理職教育に従事。年間5000人以上に研修を実施。社員教育サービスの講座開発・講師業務も担う。
ADKマーケティング・ ソリューションズ若手プロジェクトリーダー プランニング。2010年から若者研究を開始。情報感度の高い学生メンバーで構成する若者マーケッター集団「ワカスタ(若者スタジオ)」を創設し、「つくし世代」という言葉を生む。著書に『「つくす」若者が「つくる」新しい社会 』(ベスト新書)がある。
(構成・文 高島三幸)
[日経ウーマン 2019年5月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。