これぞ昭和の下町もんじゃ インスタ映えはしません
立川談笑
今どきの日本では、食文化が加速度を上げてメキメキと進化している気がしておるのですよ。「和食」が世界遺産に認定されその伝統に注目が集まる。その一方で世界各国の民族料理が主張を強めてくる。間隙を縫って、各国すべてのいいとこどりを目指す無国籍料理が様々な工夫を凝らして切りこんでくる。世界中で誰も知らなかった新しい美食の世界が広がりつつあるのが、この日本です。
身近なところでは、キャラ弁に代表される「BENTO」文化もこの数年でずいぶん進化しましたよね。BENTO文化が弁当箱と一緒に海外にまで進出しているのは、みなさんご承知の通り。ほかには、スイーツ関連もコンビニ弁当もすごいし、ラーメン業界の華々しさったらどうですか。
と、そんな食文化が洗練され続ける原動力として、個人的には「見た目」がけん引していると感じています。特にインスタグラムの浸透が大きそう。レストランで提供されるおしゃれな一皿では、まばゆい外光を受けて真っ白いお皿が輝いてます。あるいは、夜景を背景にキャンドルの灯(あか)りに浮かぶしっとりと落ち着いたエレガントなテーブルセット。朝食の写真では、横に季節の花束などをあしらって。
日常の食生活を、積極的に楽しむ。素晴らしいことです。限りある人生を輝かせる喜びであり、見知らぬ誰かの食卓をたたえることもまた、豊かな生活であります。
■洗練された「東京下町ソウルフード」
ただ、私にはちょっとおしゃれすぎて照れるところがあります。たとえばそういう場で「朝メシ」とは呼ばないんですね。あくまでも「モーニングセット」。はたまた「ワンプレート・ブレックファスト」なのです。
おしゃれなランチに「アサイーボウル」。私ゃどこぞの浅井さんって社長が経営するボウリング場かな?って思ったら(思いませんけど)、ニューヨークだとかで流行ってる、深い器に入れたヘルシーな食品なんですってよ。あれを日本語で「アサイー丼」なんて呼ぶ人はいませんわねえ。
さてさて。そんなインスタ映え・おしゃれ・グルメから最も遠いはずだと、私が信じてきたものが、東京の「もんじゃ」です。ひたすら茶色くて、どろどろしてる。ところが、なんと「東京下町ソウルフード『もんじゃ焼き』の人気店は、こちら!」なーんつって。そんな記事をウェブでちょいちょい見かけるようになりました。「餅、明太子(めんたいこ)、チーズ」のトッピングが、なんなら定番と言えるほどメジャーで、シーフードやら肉類やらを惜しみなく投入して、1人前千数百円なり。ほほー。聖地と呼ばれる月島界隈(かいわい)にはもんじゃの専門店が立ち並び、行列のできる店まであるんだそうです。
もんじゃは今やすっかり洗練されました。何よりおいしい! また、焼く前の盛り付けだとかもう、色とりどりに工夫されちゃって、まさにインスタ映え! 映えるったらないもの!
それでも、私にとっての懐かしいソウルフード「もんじゃ」とはかけはなれておるのです。おっと! この先はローカル。あまりにもローカルな、うしろ向きな話になりますのでご容赦くださいね。私の出身は東京都の江東区北砂。下町も下町です。駄菓子屋さんがわんさかとあって、冬場になるとその駄菓子屋さんの奥座敷で提供していた「もんじゃ」についてこれから語ります。
■懐かしくてまずい!? 「まずもんじゃ」レシピ
よくある「もんじゃにベビースターラーメンを入れる」のは、できれば私は避けたいのです。ベビースターラーメン自体は大好きですが、もんじゃの「そば」として使うときにはあくまでも代用品でした。味が強すぎるのです。40年前の私たちの定番としては、「そば」は味が薄い「Pラーメン」「Tラーメン」が基本。「ラメック」という商品も根強い人気がありましたが、それでも私には味が強くて、敬遠したものです。もっとも、すべて今では生産されなくなってしまいましたが。
話をまとめます。美味王国の現代日本において、進化し続けるおいしい「もんじゃ」は、素晴らしい! とはいえ、私たちが子どもの頃にソウルフードとして慣れ親しんだ「もんじゃ」が愛(いと)おしいんです。もう一度、食べたい。確かに、洗練された最先端には比べようもないくらいに、おいしくないし、なんなら、まずい。ああ、まずいさ! どうにもまずい、ガキの食い物です! それでも……。
ってことで。ここからは、絶滅してしまった下町もんじゃを再現します。懐かしくてまずいもんじゃ、略して「まずもんじゃ」のレシピをご紹介します。
(材料)
A.
小麦粉 (50g)
水 (300ml)
ウスターソース (大さじ3杯)
B.
キャベツ (約2mm×30mmに切ったものを50g)
桜エビ (ひとつまみ)
揚げ玉 (ひとつまみ)
C.
そば(「サッポロ一番しょうゆ味」1袋)※麺のみ
わはは。もはやおわかりでしょう。「そば」にベビースターとかではなく、サッポロ一番を使うのが最大のポイントです。袋を開けて、スープの小袋を取り除いたら袋ごとガシガシ、ガシガシと麺を細かく砕いておきます。粉末スープは、あとで野菜いための味付けなどにどうぞ。おすすめです。
丼にAを入れてよく混ぜ、Bを加えます。Cの「そば」は別盛りで。
熱したホットプレートに油をひけば、これで準備OK。
具材の入ったもんじゃ液(?)と「そば」を適宜一緒にしてホットプレート上に流します。焼けたら、ハガシ(コテ)を使って順次食べていきます。
☆焼き方
2通り。月島スタイルではないので、どちらも土手は作りません。
・ぐちゃぐちゃ法
焼けていようがいまいが、とにかく目の前のもんじゃをハガシでこねて、全体に火が通ったら食べる。糊(のり)状の、いわゆるもんじゃです。
・お好み焼き法
いったんプレート上にもんじゃを流したら手をつけない。下半分にしっかり火が通ったら、大きなハガシで全体をひっくり返す。生地の上下両面が焦げたら食べごろ。口当たりがクリスピーなもんじゃになります。
☆そばのコンディション
3段階。硬さにこだわります。
・通常
そばをもんじゃ液に入れたらすぐにスプーンですくい出して、具材とともにプレートへ。上からもんじゃ液を追加で垂らし、全体の水分量を調整します。そばはいくぶん硬い状態で仕上がります。
・やわらかめ
そばをもんじゃ液に入れてしばらく放置し、その後プレートへ。もんじゃっぽい仕上がりになります。
・ハード
そばを直接プレート上にばらまき、その上から少量のもんじゃ液&具材でつなぎ合わせて焼き上げます。
いかがでしたか? 昭和40年代の江東区北砂あたりの「駄菓子屋もんじゃ」文化に、立川談笑の個人的な好みを盛り込んだものです。
今どきのもんじゃ専門店で「もんじゃ通」を気取ってこんなやり方を披露すると、ものすごく笑われて恥ずかしい思いをします。ご注意ください。
1965年、東京都江東区で生まれる。高校時代は柔道で体を鍛え、早大法学部時代は六法全書で知識を蓄える。93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名、05年に真打ち昇進。近年は談志門下の四天王の一人に数えられる。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評があり、十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。
これまでの記事は、立川談笑、らくご「虎の穴」からご覧ください。
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