山田裕貴 断らないことで得た、簡単には負けない自信
2011年に『海賊戦隊ゴーカイジャー』で俳優デビューした山田裕貴。主に助演の位置で力をつけ、暴力的な役から純真なキャラクターまで、振り幅大きく演じてきた。そんな俳優歴8年、29歳の山田が、次のフェーズへ歩を進めようとしている。
17年には連ドラでのメインキャスト起用が増え、『おんな城主 直虎』でNHK大河ドラマも経験した。18年には、3期連続で連ドラにレギュラー出演。固定ファンのいるテレビ朝日のシリーズもの『特捜9』に、新メンバーの新藤亮役で加わったことも大きかった。そして19年4月からのNHKの連続テレビ小説(朝ドラ)『なつぞら』では、なつ(広瀬すず)の親友の雪次郎を印象的に演じてきた。
「雪次郎のかわいらしい感じは狙ったところでした(笑)。天陽役の(吉沢)亮だったらこうやるかな、キヨちゃん(清原翔)や岡田(将生)さんはこう来るかなと想定して、1番モテなさそうな子にしようと考えました。お菓子屋の1人息子ということは、戦後間もないときでもお金に困っていないだろうし、父ちゃんも母ちゃんもばあちゃんもそばにいる。ガツガツしていなくて、ほんわかしてるんじゃないかなって。朝ドラは5~6年オーディションを受け続けていて、『もうないな』って諦めてたんですよ。僕、アウトローな役も多いからダメなのかなって(笑)。
『特捜9』は、最高の現場です。井ノ原快彦さんはじめ、メンバーのみなさんの人間性も大好きですし、お芝居の面でもたくさんの発見があります。14年の歴史があるなかで(※)、僕はまだ2年目だし、静かにしてたんですけど、井ノ原さんが「これは新藤が言ったほうがいいね」とセリフをくれたりするうちに、僕も表現者だし、意見があったら言うべきだとだんだん感じてきて。それで今年6月に放送されたseason2の最終回では、犯人を諭すシーンで『俺は正義を信じてる』というセリフを、アドリブで『本当の正義なんて分かんねえよ』に変えてみたんです。そしたら、プロデューサーさんたちがザワザワして。でも今の若者の気持ちに近いところを提案できなかったら、僕が入った意味がないと思ったんですよね」
※06年から17年まで続いた渡瀬恒彦主演の『警視庁捜査一課9係』の続編が『特捜9』で、井ノ原快彦、羽田美智子、津田寛治、吹越満、田口浩正ら主要メンバーは続投している。
周りが後押しする愛され力
現場であった出来事を、本当に楽しそうに話す。子どもの頃から、プロ野球選手の父(現在は広島東洋カープコーチの山田和利)をずっと意識してきた。野球は高校生のときにやめたが、呪縛を解くため、好きだった映画やドラマの世界にいこうと上京。アルバイトをしながら養成所に通った。
「最初の授業で、作品から抜粋して演技をする課題が出たんです。僕は『デスノート』のLをやったんですけど、褒められている人もいるなか、みんなの前で『それはモノマネです』って言われたんですよ。『何も教わってないのにマジでムカつく!』って(笑)。後々、演技は教わるものじゃないって気づきましたが、野球でも感じたことのない悔しさで、初めて父親を通さずに熱く心が動いた瞬間でした。そのとき、この仕事を絶対にやりたいと思いました」
11年のデビュー後、12年以降はコンスタントに7作品以上に出演している。それは出会ってきた人のおかげだと話す。
「いつも周りに助けられていることが多いんです。『スターマン』で共演したご縁で、(有村)架純ちゃんや事務所さんが『山田君がいいんじゃない』と言ってくれて、『ストロボ・エッジ』の廣木隆一監督との出会いにつながりました。『万引き家族』は、『僕の周りの人たちはみんな君のことをいいって言うんだよ』と、是枝裕和監督がオーディションに呼んでくださいました」
人柄も含めて、愛され力が強い。作品数の多さには、彼自身の仕事へのスタンスも関係している。
「世間的には規模が小さな作品でも、熱量を持って『ぜひ一緒にやりたい』と言ってくれた人の期待に応えたい。そのほうがいいセッションができるから。マネジャーさんには、どれだけ忙しかろうがそういうオファーは『断らないでください』とお願いしてました。それに、僕はすごく脇役が好きなんですよね。脇役にもドラマはあるわけで、でもそれがほとんど描かれない分、興味がいくんです。
勝ち負けではないですけど、作風を選ばず数多くやってきたので、ある程度負けない自信はあります。見てもらえたら早いっていう感覚です。でも僕には爆発力がない。それは悩みです。以前ご一緒した女優さんは、自分が1つステップアップしたいと考えたときに、作品を厳選したって言っていたんです。僕は一切断らずにやってきたから、はっとさせられて。どうしたらいいか分からなくなって、マネジャーさんに相談したら、『断ったらいい役が来る? まだ来ないでしょ』って。1回殴られたところを、反対方向にもう1回殴り返された気分でした(笑)」
自虐的に話すが、人気に火がついた今が飛躍のとき。秋には約3年ぶりに『終わりのない』で舞台に立つ。劇団「イキウメ」を拠点に、SFやホラー作品を発表している前川知大の脚本・演出だ。
「前川さんの舞台は、3年くらい前から見に行っていたんです。前川さんも、僕が演じた『宮本武蔵(完全版)』(16年)という舞台を見てくださって。映画化もされた『散歩する侵略者』を2年前に見たときは、めちゃくちゃ感動して号泣しながら楽屋挨拶に行きました。僕はもともと、SFとか異星人とかが好きで、そういう話を前川さんとは思う存分できるのもうれしい(笑)。先日、共演の仲村トオルさんとお会いしたばかりで、まだまだこれからですが楽しみです。
この先も、いろいろな役を全力でやっていきたいです。怪人二十面相みたいになれたらいいなと。この仕事はゴールがない。僕の夢は、死ぬまで俳優でいることです」
(ライター 内藤悦子)
[日経エンタテインメント! 2019年9月号の記事を再構成]
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