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World Food Watch

「ひどい味の酒」から7年 南ア初黒人女性醸造家の道

2019/9/22

南アフリカ初の黒人女性醸造家、ヌツィキ・ビエラさん

「ひどい味だわ!」

初めて口にした赤ワインに、南アフリカのステレンボッシュ大学でワインの醸造を学ぶことになったヌツィキ・ビエラさんは、思わず心の中でつぶやいた。同国東部のクワズール・ナタール州出身のビエラさんは、それまでワインを飲んだことがなかったのだ。ワインをふるまってくれた男性はきれいな赤い液体をグラスに注ぎながら、その酒の特徴であるプラムなど果実を思わせる豊かな味わいについて説明してくれた。

「すてきな体験になると思ったのに、とても渋くて。その頃は、甘いお酒がおいしいと思っていたんです」(ビエラさん)。1999年のことだ。しかし、たった7年後、彼女が手掛けた初めてのワインは同国の品評会「ミケランジェロ・インターナショナル・ワインアンドスピリッツ・アワード」で金賞を受賞。さらに2009年、彼女は同国の「ウーマン・ワインメーカー・オブ・ザ・イヤー」(年間最優秀女性醸造家)に輝く。そこには、どんなドラマがあったのだろうか。

ビエラさんは、母が家を離れ働きに出ていたことから、祖父母に育てられた。高校卒業後は、クワズール・ナタール州の大港湾都市であるダーバンに働きに出たという。ズールー語を母語としていたビエラさんは、英語の習得をはじめ、これまでにない経験と可能性を探求できる環境を求めたのだ。

そこで、南アフリカ航空によるワイン醸造学の学生のための奨学金に応募する機会を得、見事合格。「何しろ、ワインと聞いて最初は『サイダー(リンゴ酒)』のことだと思っていましたから、ワインの勉強をしたかったわけではなかった。人生を前に進めるためにそれ以外に選択肢がなかったんです」と笑うが、そこには、「与えられたチャンスは必ずつかみ取る」という強い意志が感じられる。

「ブドウが一番実力を発揮するときに収穫することが重要」とビエラさん。「収穫は、1週間早くても、遅くてもダメ」と慎重に収穫時期を見極める(写真は現在のビエラさん)

しかし、大学に通い始めると想像を超える苦難が待ち受けていた。「言葉」の問題だ。ステレンボッシュ大学のワイン醸造学の授業は、すべて南アフリカの白人の言葉であるアフリカーンスで行われていたのだ。そのため、この言語を学ぶ一方で、正規の授業とは別の時間に再び、同じ内容を大学院生に英語で教えてもらったという。その上、ビエラさんは週末にはワイナリーで働くことに決めた。「大変でしたが、ワイナリーで働いたおかげで醸造学の理解がぐっと進みました」と彼女は振り返る。

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