女性就業者3000万人超えたが… 能力生かせる環境を
ダイバーシティ進化論(水無田気流)
7月発表の総務省「労働力調査」によると、女性の就業者数が初めて3千万人を超えた。前年同月比で就業者全体の伸びの9割近くを女性が占めるという。
主因は専業主婦の減少だが、出産・育児に忙殺される30代で就業率が下がる、いわゆる「女性労働力率のM字型カーブ」も、M字の「底」になる部分が浅くなってきている点が注目に値する。現在「底」は35~39歳だが、この年齢層の労働力率も76.7%と過去最高に近い水準となった。
時系列を追ってM字型の「底」をなす年齢層と労働力率を見てみると、1970年は25~29歳が「底」で、この年齢層の労働力率は45.5%であった。当時の女性の平均初婚年齢は24歳であり、結婚後の離職率の高さがうかがえる。
女性の平均初婚年齢は70年代後半に25歳を超える。79年にM字の「底」は30~34歳に移り、この年齢層の労働力率は47.5%となった。2008年に「底」は35~39歳になり、この年齢層の労働力率は64.9%に上昇した。
M字型の「底」が浅くなり後ろ倒しになった理由として、よく「出産・育児を経ても就労継続する女性が増えたから」といわれるが、果たしてそうだろうか。実は、就業していた女性が第1子出産を経て離職する割合は長年6割。子どもの出生年が10~14年になってようやく5割に下がったが、変化は速くない。
むしろ女性の晩婚化・非婚化が進み「結婚せず就労継続する女性」が増えたことや、出産・育児のタイミングにばらつきが出るようになったことが大きいといえる。
生産年齢人口の減少に伴う人手不足が深刻な日本では、単に女性の就業率を上げるのではなく生産性向上が必須だが、課題は山積だ。雇用されて働く女性の55%は非正規雇用であり、管理職に占める女性割合は「労働力調査」(18年)で14.9%と、他の先進諸国の3割から4割と比べて極めて低い。
近年顕著になった女性労働の傾向に「(家事育児などの)無償労働から(非正規雇用・低待遇の)周辺的・低賃金労働へ」がある。働く女性が増えても依然、基幹労働者とみなされていない現状が指摘できる。果たしてこれは女性にとって幸福な社会だろうか。性別その他の属性によらず、誰もが適性や能力を十全に発揮できる社会づくりへの目配りが必須といえる。
1970年生まれ。詩人。中原中也賞を受賞。「『居場所』のない男、『時間』がない女」(日本経済新聞出版社)を執筆し社会学者としても活躍。1児の母。
[日本経済新聞朝刊2019年9月16日付]
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