本当はどうなの? 常識覆すお酒と血糖値の関係お酒と血糖値(上)

日経Gooday

山形県舟形町の住民を対象に、健診結果で「正常」「予備群」「糖尿病」の人が、どのくらい心筋梗塞などの心血管疾患によって亡くなったかを調査した結果。縦軸は累積生存率で、下に行くほど死亡率が高いことを意味する。(Diabetes Care. 1999;22:920-924.)

「糖尿病の診断基準を満たしていなくても、食後高血糖があるだけで、心血管疾患による死亡リスクが高くなることが明らかになっています」(山田さん)。食後高血糖は、活性酸素を作り出す要因になり、全身の血管内で慢性の炎症が起こり「動脈硬化」を進め、心筋梗塞や脳卒中につながるのであろうと山田さんは話す。

血糖値が急激に上がったり下がったりする乱高下が、体にさまざまな悪影響を及ぼすことも近年の研究で次々と明らかになっているという。

高血糖状態でも細胞死は増加するが、血糖値が激しく上下動を繰り返したほうが細胞が死ぬ確率は上昇する。ヒトの血管内皮細胞を異なる糖濃度で培養した結果。(Am J Physiol Endocrinol Metab. 2001;281:E924-E930.)

例えば、血管内皮細胞の培養実験では、血糖値360mg/dLと90mg/dLで上下動させると、血糖値を高値で安定させた状態よりも細胞死の数が多かったという結果が出ている(Am J Physiol Endocrinol Metab. 2001;281:E924-E930.)

山田さんによると、「血糖値の異常は、まず食後血糖値に表れる」のだという。「空腹時血糖値が常に高くなるのは、かなり糖尿病に近い状態になってからです」(山田さん)。だからこそ、食後高血糖を早期に見つけ、対策を打つことが大事になるわけだ。

さらに、血糖値の乱高下は、「食後の眠気、倦怠感などを誘引し、集中力を阻害します。それによって仕事や運動のパフォーマンスも低下します。糖尿病と診断されていない、一般の方々にとっても食後高血糖は重要な問題なのです」(山田さん)

なるほど、糖尿病が怖い病気だということは知られているものの、それでも、自分には関係ない“縁遠い存在”だと思う人は少なくないだろう。しかし、食後高血糖が、倦怠感や集中力などにも影響するというと、縁遠い存在どころか、私たちのような働き盛り世代にとっても、“ど真ん中”の重要な問題ではないか!

日本人の2人に1人が食後高血糖?

食後高血糖が恐ろしいのは、通常の健康診断では見つけることができないこと。健診で測るのは空腹時血糖で、食後2時間後などの血糖値を測るわけではない。つまり、健診結果では見つからないが、実は食後高血糖に該当する人が少なからずいるということだ。

山田さんは、実は、日本人の半分程度が、食後高血糖に該当する可能性があるのではないかと指摘する。

「2013年の中国における10万人規模の研究結果では、実に成人の2人に1人が血糖異常者だったという結果が出ています(JAMA. 2013;310(9):948-959.)。日本人は中国人と同じ東アジア人で体質が近いことから、日本人を対象にこの研究と同様の食後血糖測定を行えば、これに近い数値になると推測しています」(山田さん)

日本人の2人に1人だとしたら、驚きの比率である。山田さんによると、「食後に血糖値が上昇しても、若い頃ならインスリンによって速やかに血糖値を下げることができます。しかし、年を取ると、インスリンの分泌能力が低下します。加えて、糖を取り込む場所である筋肉が減れば、糖が利用されにくくなります。40代を過ぎると、健康に見える人でも食後高血糖が見られるケースが増えてくるのです」という[注1]

恐ろしい事実が判明! 私も食後高血糖だった!

ここで話が前後して恐縮だが、今回の取材の後、恐ろしい事実が判明した。何と、私自身が食後高血糖であることが分かったのだ!

取材で上記のような先生の話を聞いているうちに、「もしや自分も食後高血糖なのではないか…」と不安でたまらなくなった。というのも、パスタや丼物など糖質メインの昼食をとった後の午後2時くらいになると、ダルくなったり、どうにも眠くてたまらないということが少なくなかったからだ。そして、冒頭で触れたように、私は糖尿病家系、血糖値が上がりやすい体質である可能性が高い!

あまりに心配になったので、取材の翌日、筆者も食後に血糖値を測ってみた(当日の朝ごはんはみたらし団子、昼食はビビンバ丼+唐揚げ+豚汁)。すると、食後2時間時点での血糖値は180mg/dLと、思いっきり食後高血糖であることが判明して、それはもう驚いた。

筆者の場合、空腹時の血糖値は80mg/dLと基準値内で、健診で引っかからなかったため、「糖尿病と診断されてないし♪」と完全に油断していた。改めて糖尿病家系の恐ろしさを知ったのであった(涙)。

この話を聞いて、「自分も大丈夫だろうか」と不安になった人も多いと思う。山田さんによると、「ランチの2時間くらい後に、眠くなる方は食後高血糖の可能性が高い」という。

自分もアブナイ!と思った人は、ぜひ一度食後の血糖値を測ってほしい。調剤薬局にある検体測定室で、500円程度で測定できる。おにぎり2個と野菜ジュースを飲んで(これで糖質100g程度)、その2時間後に血糖値を測定して、血糖値が140mg/dLを超えていたら食後高血糖だ。もちろん、かかりつけの医師に相談したり、人間ドックの「経口ブドウ糖負荷試験」で測定してもいいだろう。

「お酒を飲むと血糖値が上がる」は昔の常識

さて、ここまでの先生の説明で、食後高血糖がいかに怖いかがよく分かった。ではいよいよ、本題である「お酒と血糖値の関係」について山田さんに聞いていこう。

山田さんによると、かつては「お酒を飲むと血糖値が上がる」というのが糖尿病専門医の間でも常識だったのだという。

「昔は、糖尿病専門医にとって、アルコールは避けるべきという考えが当たり前でした。1990年代の日本糖尿病学会のガイドラインでは血糖値の管理が良好な人だけに限定して飲酒を許可していました。『お酒は血糖値を上げるのだろう。カロリーが血糖値の上昇に関与しているのだろう』という推測のもと、飲酒制限を指導していたのです」(山田さん)。確かに、かつて私の母が糖尿病と診断された際は、「お酒は絶対に禁止」とドクターから言われている。

ところが、この指導には科学的根拠があったわけではないのだと山田さんは話す。

「『お酒を飲んで血糖値が上がる』という論文は探しても見当たりません。あくまで私の推測ですが、糖尿病におけるアルコールの弊害に根拠はなく、何事も節制することが糖尿病治療にとって良しとされてきたことが影響しているのではないかと考えられます」(山田さん)

そして今は、その正反対、つまり「アルコールは血糖値の上昇を抑える方向に働くという興味深い研究報告が出ています」と山田さんは話す。

[注1]食後高血糖を避ける食事法として山田さんが推奨しているのが、緩やかな糖質制限「ロカボ」だ。詳しくは、後編で紹介するが、朝昼晩の3食は、1食当たりの糖質量を20~40g程度にして、さらに間食10gを合わせて、1日当たり糖質70~130gに抑えるという食事法だ。カロリー制限はなく、たんぱく質や脂質はおなかいっぱい食べていい。

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