「デジタル遺産」相続に備え 知らぬ間の損失に注意

仮想通貨の相続では、国税庁が2018年11月に手引きを示した
仮想通貨の相続では、国税庁が2018年11月に手引きを示した

故人が残したインターネット銀行の預金口座、証券口座、電子マネー、暗号資産(仮想通貨)などの相続が新たな問題として浮上している。パソコンやスマートフォンにデータとして記録されている「デジタル資産」をどう引き継ぐのか。そもそも相続の際にデジタル資産の存在に気づかない場合が多い。デジタル資産を相続すると、相続税の支払いはどうなるのか。注意点をまとめた。

デジタル資産とはネットで管理する預金や株式、投資信託、保険などだ。外国為替証拠金(FX)や仮想通貨や電子マネーも含まれる。若い世代だけでなく、デジタル資産を持つ高齢者が増えている。

遺産の把握難しく

「資産を把握するための手掛かりが減っている」。三菱UFJ信託銀行の相続事業室で、遺言信託や遺産整理を担当する小谷享一氏はこう話す。郵送による通知などがないため、相続人がデジタル資産の存在を知らないという問題が起きている。原則として金融機関が問い合わせることはないため、放置されているデジタル資産が増えているとみられる。

親がネットで金融取引をやっていたことを知っていても、利用しているサービスのIDなどが分からず、子どもらがアクセスできないことがある。注意が必要なのは、デジタル資産を維持するための利用料金が発生してしまうケースだ。例えば、ネット経由で契約していた投資信託を亡くなった後に解約しなかった場合は、信託報酬を払い続けることになる。

こうした問題にどう対応すべきか。三菱UFJ信託の小谷氏は「配偶者や子どもが日ごろからどの金融機関と取引しているかを確認することが最重要」と指摘する。親と子どもが離れて暮らしている場合は、帰省の際に話した何気ない会話が隠れた資産を把握する手掛かりになるという。

親子で直接お金の話をしづらければ、親は残された親族らに希望などを示すエンディングノートに取引先を記入しておくことも有効だ。アカウントのIDを書き添えておくと、子どもは各社とのやりとりがスムーズに進むという。

認知症を発症すると、家族でも本人名義の口座からのお金の引き出しや金融商品の売買ができなくなる。後見人に資産管理を委託する場合でも、デジタル資産は認識されづらく、知らないうちに含み損を抱えているケースがある。親は資産形成に役立っているかを精査して、健康なうちに不要な取引を閉じるのが有効な対策の一つだ。

銀行や証券会社の口座にあるお金を相続する場合は、相続人である親族から申し出がないと手続きができない。本人の死亡証明書や相続できる関係性を示す証明書がいる。

相続税が発生するのは国が定めた控除額を超える資産を相続する場合だ。相続税を納める必要がある場合は、被相続人の死亡から10カ月以内に申告しなければならない。死亡後10カ月以内に相続税を納めないと、延滞税や加算税を追加で納める必要がある。

仮想通貨も確認を

仮想通貨の相続では、国税庁が2018年11月に手引きを示した。相続人はまず、引き継ぐ仮想通貨の額を把握するための「残高証明書」を仮想通貨の交換業者から取り寄せる。請求の方法は交換業者によって異なるため、あらかじめ確認しておきたい。

コインチェックの場合は、申請書類に記入した上で、被相続人と相続人全員の戸籍謄本や印鑑証明書などを送る。送り返された残高証明書を確認し、内容に同意すれば代表相続人の口座に亡くなった日のレートで現金が振り込まれる。相続人は交換業者からの残高証明書に基づいて税務署に納税の申告をする。

デジタル資産では引き継げるものと、引き継げないものがある。航空会社の「マイレージポイント」は相続が可能だ。日本航空(JAL)、全日本空輸(ANA)とも、死亡証明書などの提出と引き換えに残っているマイルを親族に渡せる。ANAは被相続人が亡くなってから6カ月以内に申請しなければならない。JALでは月300件程度の申請があるという。

一方、Tポイントやnanaco(ナナコ)ポイントなどの買い物時につくポイントはほとんどが相続できない。

国税庁によると、17年の相続税の課税価格は15.6兆円と前年比5%増えた。相続資産の内訳では、現預金や有価証券など金融資産の割合が大きい。ネットを使った金融取引が高齢者の間で広がっており、これからデジタル資産の相続が増えるのは確実だ。円滑に相続できるように備えておきたい。

(上田志晃)

[日本経済新聞朝刊2019年9月14日付]

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